研究課題/領域番号 |
18K10879
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
桑原 知子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (90358391)
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研究分担者 |
藤巻 慎 熊本大学, 発生医学研究所, 特別研究員(SPD・PD・RPD) (10795678)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 成体幹細胞 / 神経 / 骨格筋 |
研究実績の概要 |
運動による効果が現れる成体幹細胞として、運動効果が直接的に現れやすい骨格筋内の成体幹細胞である筋衛生細胞(サテライト細胞)と、間接的に運動効果の効力が発揮される脳中枢神経系海馬の神経幹細胞とを扱った。運動効果による成体幹細胞機能を左右する生体因子として、神経領域と骨格筋でWnt3/Wnt3aを観測した。Wnt3因子の発現上昇は、老化した個体の脳海馬の成体神経幹細胞の増殖や、新たな神経新生を促す効果を保持する事を確認した。また、運動効果によるWnt3/Wnt3a発現応答の影響、サテライト細胞機能への影響について、骨格筋組織の抽出サンプルで解析を行った。併せて、走運動を施した実験動物マウスの脳海馬と骨格筋から、成体幹細胞をそれぞれ樹立し、in vitroの細胞培養系での評価が行える実験系を構築した。運動効果の免疫組織染色法による影響の解析では、増殖・分裂細胞をトレースするためのBrdUを10日間腹腔投与を動物群に設定した(健常体vs運動施術群)。抽出した組織から、(i)成体幹細胞(未分化幹細胞、NSC)の増職能を、神経系ではSox2(+)BrdU(+) NSC数, Nestin(+)BrdU(+) NSC数のコントロール群との定量比較により評価した。(ii)神経新生機能は、NeuroD1(+)BrdU(+) 神経前駆細胞数, Dcx(+)BrdU(+) NP数、(iii) 神経(neuron)分化機能はNeuN(+)BrdU(+) neuron数、Prox1(+)BrdU(+) neuron数、さらに(iv)新生Wnt3産出細胞Wnt3(+)BrdU(+)数の検出・統計解析により測定した。骨格筋では、増殖マーカー遺伝子、BrdU(+)細胞と Pax7未分化性マーカー遺伝子群、活性化のマーカーであるMyoD(+)Pax7(+)陽性細胞種について同様の定量統計解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
脳神経系の成体神経幹細胞と、骨格筋内のサテライト細胞に同時にスポットをあて、運動効果が与える影響を解析するために必要なそれぞれの実験系と抽出サン プルの確保を行えた。独立した器官である脳神経と骨格筋の成体幹細胞に、運動がどのような効果を果たすかについてパラレルに比較解析するため、それぞれの 成体幹細胞培養系(in vitro評価系)と組織抽出サンプル(in vivo評価系)の集積を効率よく進めることが出来ている。今後は、新しい制御機構解明のデータ 集積を行い、研究論文発表に役立つ諸実験を展開していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、サテライト細胞および神経幹細胞の機能を左右し得るWnt3/Wnt3a因子の挙動(発現誘導、発現領域の特定)に焦点を当てなが ら、成体幹細胞(サテライト細胞と神経幹細胞)の潜在的な活性、それを牽引するのはニッチ細胞で構成される環境制御の、複数の組織(骨格筋と脳神経系)で の相似性や違いについて、新規な学術的知見の探索を進める。また、脳中枢神経系や骨格筋は、老化で非常に大きな影響を受ける共通組織であることに着目す る。若齢組織、老齢組織からの比較実験系の構築についても、上述したこれまでの研究概要に沿いつつ、進行させていきたいと考えている。老化によるサルコペ ニア(骨格筋)や認知・精神疾患などの脳神経疾患の予防、治療、創薬開発にも幅広く役立つ基礎研究の展開を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
標的遺伝子の発現制御について、精密な分子応答機構を正しく理解するため、データの集積と解析の繰り返しにこれまで尽力してきた。これらの実験に用いる試 料は微量分析が可能であったため、分子生物学的な実験に用いる試料採取に必要な消耗品(遺伝子発現解析キット類)の購入が当初予定より低くなった。また、 標的遺伝子の同定をある程度行った後に、高額な抗体類を購入して実験を進める事が効率的な研究費使用に繋がるため、次年度使用額が生じる事になった。今 後、これまで得られた実験データをもとに、(より高額な)抗体類の購入などを伴う組織解析実験を有効に進め、当研究の推進に努める。
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