最終年度の研究目標は,昨年度のコロナ渦の影響で予備実験に留まっていたテニスの予測判断課題を実施することであった.具体的には,テニス熟練者の優れた予測能力は,現在の感覚情報(動作情報)と過去の事前情報(ポジション情報)の両者において,確率の重み付けに沿った情報利用(ベイズ統合)をしているのかを検証することであった.最終年度では,感覚情報の検証実験(実験1)ならびに,文脈情報の検証実験(実験2)までにとどまり,最終的なベイズ統合検証までは,数名のデータのみでの検証に留まった.
実験1では,コース予測課題における動作情報の課題難易度を操作できる動作誇張法(Pollick et al 2001)の効果について,バーチャルリアリティ(VR)実験により検討した.実験の結果から,熟練度により予測時に検出可能な感覚情報(動作情報)の閾値が異なることが明らかとなった.実験2では,テニスの予測事態における事前情報の利用効果について検証を行った.実験の結果から,熟練者と初心者の両者ともに事前情報である文脈情報を利用していることを確認したが,熟練度によって事前情報の利用効果が異なることを明らかにした.さらに実験3では実験1と実験2の結果を踏まえて,熟練者の優れた予測能力がベイズ統合的な情報利用に依存するのかを,数名を対象として検証を行った.現在得られた結果の解析中であるが,熟練度に応じた統合の特徴に違いがある可能性が示されている.
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