研究課題/領域番号 |
18K10895
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
坂本 彰宏 順天堂大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (70615434)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 二酸化炭素感受性 / hypercapnia / ハイポベンチレーション / 持久的運動 / パフォーマンス / 呼吸循環器 / エネルギー代謝 |
研究実績の概要 |
持久的アスリートは高い有酸素性エネルギー代謝能(最大酸素摂取量など)を持つ事の他に、二酸化炭素感受性が低く換気応答が少ないという予測が本研究でされている。過去の実績では、競技力の高い学生駅伝出場者は漸増負荷試験中に記録される呼気終末二酸化炭素圧(PETCO2)が通常よりも高く、換気量(VE)は少ない結果が得られた。今後の課題は運動中のVEを意図的に制御して高いPETCO2を再現し(ハイポベンチレーション)、この状況で長期的にトレーニングをすることで持久的パフォーマンスの向上が増大するかについての検証である。しかし、この様な異常な呼吸法で運動をした場合、適応前の段階では呼吸困難感が強く発生し、運動の継続を妨げる可能性がある。そこで本年度の研究では、意図的なハイポベンチレーション状態で持久的運動をすると、運動継続時間や生理学的応答がどのような影響を受けるかについて検証した。 持久的鍛錬者16名を対象とし、血中乳酸濃度が4mMとなる強度(OBLA)でのペダリング運動を60rpmにて疲労困憊まで2回実施した(50分で打ち切り)。1回目は通常呼吸にて行い(CON)、2回目は別日にて呼吸頻度を通常呼吸時の60%に低下させ実施した(HYPO)。HYPO条件ではCON条件と比較してVEが20%低下し、PETCO2が5-10mmHg増加した。上記2条件にて運動継続時間、主観的疲労度(RPE)、血中乳酸濃度([La-])、心拍数(HR)、血液ガス、呼気ガスを比較した。 RPEは運動開始から10分まではHYPOの方がCONよりも高い値となったが、その後は条件間で差は観られず、被験者は早期に呼吸制御に順応したことが示唆された。また2条件で運動時間、[La-]、HRに差がなかった。こられの結果から、ハイポベンチレーション状態でトレーニングをしても、通常呼吸と同等の運動時間が確保できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの蔓延、及び感染防止対策によりヒトを対象とする実験の遂行や被験者の確保が困難となった。特に本研究ではトレッドミル室内にて呼気ガス分析器を用いた計測を行うことから感染のリスクが高く、トレーニング実験といった長期的な介入が実現できていない。また本学の学生アスリートから被験者協力を得る為、新型コロナの影響による試合日程変更や濃厚接触の発生など、状況が不安定となってしまう。これらの理由から当初予定していた研究期間の延長が余儀なくされ、1年間の延長申請を提出した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の実験遂行においては被験者を本学内の学生に限定して、日常的に感染拡大予防対策をしている、かつ日常的に動向する時間があるにも関わらず新規感染が発生していないことを条件とする。実験実施の際は、本学の感染拡大防止対策マニュアルに則る、測定機器の清掃・除菌を毎回行う、実験環境の換気をする、等の行為を徹底する。 今後の実験内容については、本年度の検証に用いたハイポベンチレーション法をトレーニングに応用して、トレーニング後(2ヶ月程度)の持久的パフォーマンス向上が通常呼吸よりも増大するかについて検証することを計画している。また、意図的なハイポベンチレーションを実施することにより二酸化炭素感受性に関わる呼気ガスパラメーター(VEやPETCO2)の数値が変化するかについても明らかにする。 この際、ハイポベンチレーションを持久的運動中に実施する方法と、インターバルトレーニングの休息時に実施する方法を設け、様々な使用条件から通常呼吸との比較を行う。特に、インターバルトレーニング中の休息時に行うハイポベンチレーション法は、本年度の方法をそのまま応用できない為、適した方法の探究を先行的に実施してから遂行する。尚、2021年度の研究成果については第77回日本体力医学会大会、及びSports Medicine Australia conferenceにて発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染予防の観点から、実験を長期的に中断した時期があった。これにより、人件費や物品費を予定通りに使用することが出来なかった。また、国際学会の中止や国内学会のオンライン開催に伴い、旅費の使用も予定通りに行えなかった。 今後は、本学の新型コロナウイルス感染下におけるヒトを対象とした実験遂行マニュアルに則り実験を徐々に再開することで、人件費や物品費として次年度使用額を消費していく。また、学会の対面開催が再開する流れとなっているため、旅費として使用する。上記以外にも、消毒・洗浄キッドの購入や、抗菌素材の呼気ガス採取用マスク・ディスポーザブルフィルターの購入にも割り当てる。
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