鍛錬者は運動中の呼吸頻度(RR)が少なく、一回換気量(VT)が代償的に増加する。このVT増加は動脈血CO2分圧の変化を最小に留める為である。一方で持久的能力が極めて高いエリート選手は、CO2感受性が低下する為、代償性VTが充分に起きず、運動中の換気量(VE)が低下し呼気終末PCO2(PETCO2)が高値を示す。このような呼吸パターンの検出は、持久的パフォーマンスレベルを推定する新たな指標になり得るとし、先行研究や我々の研究で着目されている。 本年度の研究では、23名の学生サイクリストとトライアスリートを対象とし、OBLA仕事率(血中乳酸濃度=4mM)でのペダルトレーニングを通常呼吸で行う群(TRnorm)と、RRを60%に低下させて低いVE・高いPETCO2を模倣させながら行う群(RRslow)を設けて、10週間(20セッション)のトレーニング前後における漸増負荷試験(IET)と40kmタイムトライアルペダリング(40kmTT)のパフォーマンスへの変化、及び呼吸パターンへの変化を検証した。また、自身の部活動のみを10週間継続するコントロール郡も設定した。 10週間後、VO2peakはいずれの群においても向上は観られなかった。しかし、TRnormとTRslowの両群ではIETの運動時間が延長された。40kmTTはTRslow群のみで向上が観られた。更にTRslow群では自然呼吸の指示にも関わらずIET中の呼吸パターンに変化が観られ、RRが低下しVTとPETCO2が増加した。しかし、CO2感受性の低下を示すVT増加の抑制は見られず、IET中のVEには変化が観られなかった。 今後は、トレーニング期間を更に長期化し、パフォーマンスや呼吸パターンへの影響を検証する必要性や意義が示された。
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