“視覚による認知-動作生成”の過程への意識や注意といった認知的活動の関与について検討するために、本研究は、大きさ錯視を誘発する標的に対する反応動作を課題とする実験パラダイムを用いた実験により検討した.動作課題は、大きさ錯視を誘発する標的(Ebbinghaus図形)に対する、①認識した標的(図形の真中の円)の大きさを、標的を掴む仕草により表現する動作(Matching)と、②標的に手を伸ばして摘まもうとする動作(Grasping)であり、摘まみ動作中の指の開き具合の大きさは、標的の大きさ知覚に基づいた動作形成を示すという観点から、動作形成への錯視効果を分析した. 研究期間初年度から2年目(2018~19年度)にかけて、二重課題条件(Grasping/Matchingと同時に選択反応課題を遂行する)を課す知覚-反応動作実験を実施した.2019年度には、その成果について運動制御科学に関する国際誌に発表した. 2020年度より着手した実験では、極限法を用いて特定した“大きさ錯視の効果が誘発される標的図形サイズの閾値”を基に、「実際には大きさの異なる2つの標的が錯視効果の影響により同じ大きさに見えてしまう」条件を設定し、Graspingへの錯視効果を検討した. 新型コロナ感染拡大防止による実験施設使用制限のなか被験者を獲得しつつ、研究期間の延長を申請して実験を継続した.最終年度(2023年度)は、データを分析し、関連分野の国際誌への投稿に向けて準備を進めている. “標的知覚-動作生成”の情報処理過程への認知機能の関与について、当該研究期間内に遂行した上記2つの実験によって、課題遂行を妨げる情報から意識を逸らしながらも課題遂行できる可能性や、意識的に知覚された情報に影響されずに課題動作を形成する様子をとらえることができたという点で興味深い知見を得ることが出来た.
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