研究課題/領域番号 |
18K10899
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
大迫 正文 東洋大学, ライフデザイン学部, 教授 (60152104)
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研究分担者 |
柴田 俊一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (80187400)
中井 真悟 常葉大学, 健康プロデュース学部, 助教 (10825540)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | ラット / 加重低減 / 骨量 / 経皮通電刺激 / 筋量 / 組織構造 |
研究実績の概要 |
2019年度の応用研究は、搬送波を用いた直流電流による通電刺激が、皮下の軟組織の厚さの異なる部位における骨量に及ぼす影響を比較、検討することを目的とした。7週齡のウィスター系雄性ラット32匹を用い、それらを後肢懸垂群(HS)と、後肢懸垂・経皮通電群(TE)および対象群(CO)の4群に分類した。ラットの下腿前面には骨が下腿の表面近くに位置し、一方、下腿後面では皮下に厚い軟組織が存在するため骨が下腿の深部に位置する。このことから、TEはさらに、下腿前面および後面から経皮通電刺激する群(それぞれ下腿前面刺激群(AN)および下腿後面刺激群(PO))に分類した。CO以外の群は2週間後肢を懸垂した。低周波治療器(直流、60V、31Hz・200μsec、搬送波周波数80kHz)を用いて、ANとPOのそれぞれ下腿前面および後面に、10分/日、5日/週、2週刺激した。実験期間終了後、各群のラットを安楽死させた後、脛骨の骨幹端および骨幹中央部を摘出し、それらを組織学的に観察した。 各群の骨幹中央部における皮質骨の骨膜面を走査電子顕微鏡で拡大すると、破骨細胞による吸収像(吸収窩)はHSが最も多く、それに対してCOは最も少なく骨表面に滑沢な部位が多く見られた。ANおよびPOの吸収窩の量はHSおよびCOの中間的な状況にあった。骨幹端海綿骨の骨密度には群間に有意な差が認められなかったが、骨梁幅に関しては、HSがCOより有意(P<0.05)な低値を示した。ANおよびPOの骨梁幅もCOより狭いが、その差は有意ではなく、このことは、ANとPOでは後肢懸垂によって引き起こされる骨梁幅の減少が抑制されたことを意味する。 以上のことから、搬送波を用いた直流電流による通電刺激は、皮下の軟組織の厚さの違いに関わりなく加重低減に伴う骨量減少を抑制することが理解された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請者は以前の実験で、交流の従来型低周波治療器を用いて、鍼通電刺激に顕著な骨量維持効果があることを確認している。鍼通電刺激では電極となる鍼灸針を直接骨膜まで刺入するが、経皮通電では刺激が皮下の軟組織を通過する間に減衰する可能性がある。事実、以前に交流の従来型低周波治療器を用いて、経皮的に通電刺激したところ、骨量維持の効果はほとんど認められなかった。その後、搬送波を用いた直流の新型低周波治療器が開発され、その通電刺激は体表から深部にまで到達することが特徴とされていた。そのため、本研究では新型の低周波治療器を用いて経皮通電刺激の予備実験を行い、その効果が確認されたため、以下のような実験を行った。 まず、2018年度には、加重低減によって生じる骨量減少に対する鍼および経皮通電刺激の効果を比較、検討し、経皮通電刺激には鍼通電刺激と同様な骨量維持の効果があることを認めた。このことから、特殊な資格を必要とする鍼灸針を用いなくても、一般人が経皮的に通電刺激を行うことによって骨量維持が図れる可能性が示唆された。そして、2019年度には、体表から骨までの距離(皮下の軟組織の厚さ)の異なるラット下腿の前面と後面で、経皮通電刺激の効果を比較、検討した。その結果、皮下の軟組織の厚さが異なっても、同様な骨量維持の効果が得られることが明らかとなった。 以上の研究で当初の計画はほぼなし得たが、2019年度にはそれに加え、次のような実験も行った。一つは、異なる電圧(20、40、60V)の経皮通電刺激による骨量維持効果の違いに関する実験で、もう一つは異なる搬送波周波数(40、60、80kHz)の影響に関する実験であった。これらはより有効な経皮通電刺激法の確立に向けて検討したものであり、2020年度の応用開発研究に繋げる、またはその研究成果の幅を拡げるものとして意義あるものであった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、最終年度の2020年度には将来的な臨床への応用を視野に入れ、応用開発研究として通電刺激の至適頻度に関する実験を行う。具体的には、これまでと同様に後肢懸垂ラットを用い、1週間に1、3および5回という異なる頻度の経皮通電刺激を行う。実験期間終了後、各群から大腿骨を摘出して形態学的に分析し、その結果から骨量維持に有効かつ最少の頻度を求める。 本研究で用いた刺激装置は通電の電圧や搬送波の周波数が切り替え可能であり、2019年度にはそれを活用して、経皮通電の電圧や搬送波の周波数を変化させた実験を行った。これらの実験は当初の計画にはなかったが、本装置がもつ機能を十分に引き出し、より効果的な条件を導くために必要なものであった。しかし、搬送波の周波数と同様に、通電刺激の基本となる直流電流自体の周波数の高低が、骨量維持にどのような影響を及ぼすかについては明らかにされていない。そのため、今後、骨量維持のための直流電流の至適周波数を明らかにするために、その周波数を変えた通電刺激(31、125、500Hz)の効果についても検討する。 また、本研究では通電刺激による骨吸収の抑制や骨形成の活性化の機序の解明という課題もある。これまでに、申請者は加重低減中の通電刺激によって、破骨細胞にはRuffled borderやClear zoneの消失がみられ、その細胞が脱分化を起こして骨面から離れることを観察している。破骨細胞は骨髄中の細胞(単球)に由来し、骨芽細胞は骨髄の未分化間葉系細胞に由来するが、それらの分化過程には他の細胞が分泌するさまざまなサイトカインの関与することが知られている。しかしながら、それらの分泌に通電刺激がどのように関わるかは明らかにされていない。それらのサイトカイン分泌と通電刺激との関連性を検討することは、通電刺激の作用機序の解明にも繋がるものであり、今後はこの検討も進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究は、これまで当初の計画通りに実験が進み、さらに当初の計画以外にも、それらに関連する他の実験も実施してきた。そのため、2020年度には計画通りに、「異なる頻度の経皮通電の効果」に関する実験の実施をもって完了する予定であった。しかし、2019年度末から新型コロナウィルスの感染拡大防止のために、今のところ大学の方針で7月末まで入構を自粛せざるを得ない状況になった。このことは実験動物や種々の実験材料ならびに試薬などの供給にも影響が現れ、実験遂行に多くの支障が生じている。4月はじめには実験最中のラットを安楽死させて実験を中止しなくてはならない事態まで発生し、さらにその後の計画も大きく変更したため、すでに今年度の実験計画にかなりな遅れが生じている。このような事態は日々変化し、収束の長期化の可能性も指摘されており、今後の実験については見通しが立たないのが現状である。このようなことから、当初、2020年度に計画していた「異なる頻度の経皮通電の効果」に関する実験を2021年度に延期する可能性がでてきた。この実験計画は、前述の「今後の研究の推進方策」で示した通りであり、その実験で使う実験動物や試薬等の購入のために、今年度の研究費を次年度に回すことなることが予測される。
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