これまで超音波画像技術を用いて、ヒト骨格筋の量的特性(筋厚や筋断面積等)に関する研究は数多く行われてきたが、筋の硬さなどの質的特性に関する研究は方法論上の問題等から十分蓄積されていないのが現状である。しかし、近年開発された荷重超音波装置は、Bモード超音波装置のプローブに圧力計を内蔵することで筋組織そのものの変位量を安全かつ簡便に計測でき、小型軽量で持ち運びが容易であるため、多くのデータを収集することが可能である。本研究はこの装置を用いて人の骨格筋の硬さ(筋硬度)に関する基礎的データを収集することで、将来的に運動・スポーツ現場での幅広い応用につながる知見を得ることを目指すものである。 本年度は昨年度コロナの影響で研究の遂行の中断を余儀なくされた「若年成人男性を対象とした一過性及び継続的な筋力トレーニングが筋硬度に及ぼす影響」の研究を改めて実施した。上腕屈筋のトレーニング実施による一過性の筋の張りがもたらす筋厚、筋硬度、肘屈曲トルク、上腕部圧痛変化の経時的な変化を検討したところ、筋硬度は1週間後、その他は72時間後にはトレーニング前の状態に戻ることが確認された。また、上腕屈筋に対する継続的な筋力トレーニングが筋厚、筋硬度ならびに肘屈曲トルクに与える影響について検討した結果、筋厚と肘屈曲トルクは有意な増加を示したが、筋硬度は変化しないことが示された。 一方、若年成人女性を対象に上腕二頭筋に対する8週間の筋力トレーニングを実施したときの筋硬度及び筋厚、最大筋力の変化について再度検討したところ、筋厚と最大筋力は有意に増加し、筋硬度は有意に減少した。 本研究において、若年男女を対象とした上腕屈筋への継続的な筋力トレーニングが筋硬度に及ぼす影響についての知見は一致せず、更なる検討が必要であると考えられた。 なお、本年度は研究最終年度に当たるため、4年間(1年延長)の経過報告書を作成した。
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