研究課題/領域番号 |
18K10909
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
海老根 直之 同志社大学, スポーツ健康科学部, 准教授 (30404370)
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研究分担者 |
北條 達也 同志社大学, スポーツ健康科学部, 教授 (40298740)
中江 悟司 大阪大学, 基礎工学研究科, 特任研究員(常勤) (80613819)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水分吸収 / 安定同位体 / 固形食 / 飲料 / 高糖質 |
研究実績の概要 |
運動後のリカバリーにおいて、体液とエネルギー源の補充を効果的に達成するためには、水分と糖質の補給が重要であり、消化管での吸収速度はその成否を左右している。スポーツ飲料は今やスポーツの現場に十分に普及しているが、これは実験室的研究の積み重ねによってデザインされている。しかし、この科学的基礎は、空腹状態で飲料を単独摂取させるといった限定的な条件の研究によって知見の大部分が構成されている。即ち、現場で生じる夾雑要因を関連付けた複合的な検討は、方法論的な限界によって十分に実施されていない。そこで本研究では、安定同位体標識技術を利用し、食物の摂取状態が水分と糖質の吸収速度に与える影響を明らかにし、運動時の疲労を効果的に回復させる実用的栄養処方の確立に向けた礎となる知見を取得する。 消化器・循環器系に既往の無い男子大学生10名を対象に実験を行った。被検者に①ご飯を摂取させる試行(ご飯試行)と②高糖質飲料を摂取させる試行(高糖質試行)を実施させた。飲料とご飯の水分量を150 g(重水素水3.5 gを含む)に、飲料の糖質量はご飯に合わせて65gとした。まず本試験を模した予備試行を経験させる丁寧な手続で、順序効果が発生しないように前述の2試行を割りつけるクロスオーバー試験とした。結果として、ご飯試行と高糖質試行のいずれにおいても、試験食摂取後に血漿の相対同位体濃度が時間と共に増加したが、いずれの時点にも試行間差はみられなかった。本試験の条件では、飲料の摂取に水分補給面での優位性は示されず、排尿量が増加するという負の影響が観察された。両試行で同量の糖質を摂取させたにも関わらず、飲料から糖質を摂取した場合に、血糖値の上昇が速いことが明らかとなった。 スポーツ実施の現場では、対象者の置かれている状況を分析したうえで、飲料に固執することなく水分補給の手段を選択することが有効となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
固形食に含まれる水分の腸管吸収については方法論的な限界によって、国内外を問わずこれまで十分な検討が行われていない。本研究ではこの課題に安定同位体標識技術を用いるアプローチで、飲料中の水分と固形食中の水分の吸収特性の違いを観察することに成功している。今後の研究の展開を見越し、体内同位体濃度の評価方法についても、血液、尿といった生体試料による特性のみならず、試料の至適採取タイミングについても検討が完了している。研究に協力頂く被検者の負担を軽減しつつ有益なデータが取得できる研究デザインが整いつつあるため、今後の研究実施の自由度は高まっており、生体負担が小さいことは、現象の観察においても有益であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、研究規模を拡大して例数を増やすことによって、より信頼できるデータセットを獲得するとともに、当該分野の今後にブレークスルーをもたらす、根幹技術に関する検討を追加して現象の複雑さに挑んでいく。新型コロナウィルスの感染予防措置が求められるため、現時点で最終年度の研究の見通しを立てることは幾分困難となっているが、これまでに観察されている現象の普遍性については、条件を変えて検討を行うことで確認したい。なにより、本研究で得られた科学的知見については、学会発表ならびに論文投稿により、積極的に発信していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
同位体分析の精度を高めるために、生体試料の前処理のプロセスに大幅な改良を加えた。これによりヒト試験により得られた生体試料の分析に時間が必要となり、一部の実験と分析を次年度に繰り越す必要が生じた。これに伴い学会発表の計画についても次年度に繰り越すことになり、予算の執行計画を一部変更することになった。 当該予算については、2020年度前半に計画している分析の費用と年度後半に計画している学会発表等による旅費としての支出を予定している。
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