研究課題/領域番号 |
18K10910
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研究機関 | 大阪電気通信大学 |
研究代表者 |
中村 英夫 大阪電気通信大学, 医療福祉工学部, 准教授 (40411475)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 等張性収縮 / 着圧衣 / 心臓自律神経系活動 / 心拍数 |
研究実績の概要 |
本年度の研究では等張性収縮時を想定し、自転車エルゴメータにより下肢に対して負荷を与えた際の心拍数及び心臓自律神経系活動と、新たに筋電図による筋活動計測も含め、靴下着圧と強着圧と弱着圧の2種類で差異が認められるかについて検討することを目的とした。 スポーツ分野において多くの研究によって着圧衣の効果について調査され、さまざまな議論されている。現在では、多くの研究者らは着圧衣の効果について積極的な効果を認めている。しかし、着圧衣の生理学的なメカニズムについての科学的な根拠を与える報告はいまだに示されていない。実際の運動時において靴下着圧効果が認められるかについての科学的根拠を示すことが本研究の目標である。 被験者は健常若年男子10名を用いて実施した。実験前にインフォームドコンセントをとり、被験者らの同意を得ている。また、本実験内容については大阪電気通信大学生体倫理委員会の承認を得たうえで実施した。着圧靴下として強着圧靴下と弱着圧靴下を2種類を準備した。今日着圧靴下は腓腹筋筋腹周辺で平均34.6mmHg、弱着圧靴下で平均11.6mmHgであった。被験者は2種類の靴下を着用し、次の手順で測定を実施した。実験開始から5分間安静座位姿勢で心拍数を計測、その後自転車エルゴメータに乗り、20Wの負荷から開始し、30秒で20Wずつ増大させて100Wに達してから5分間の運動をしてもらった。運動終了後、回復過程を観察するため、再度椅子に座り安静座位で10分間の測定を行った。また同時に大腿部の大腿直筋及び大腿二頭筋外側頭の筋電図も測定した。 運動開始の負荷増大時及び回復過程において有意な心拍数の低下が観測された。また、自律神経系活動についても有意な差は観測されなかったが、副交感神経系活動の増大が示唆される結果を示した。結果より、仮説通り靴下着圧による心臓循環系機能への補助効果が示唆される結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究結果より、自転車エルゴメータによる大腿四頭筋を始めとする一定負荷時での靴下着圧効果による心臓自律神経系活動の亢進と心拍数の低下が認められた。強着圧靴下着用時で弱着圧靴下着用時より有意な心拍数の低下が、運動の初期段階の負荷増大時及び回復過程において認められる結果を得た。心臓自律神経系活動についても心拍数の低下の働きをする副交感神経系活動の亢進を示す結果もあわせて得られた。これらの事実は、靴下着圧が皮膚表面上の毛細血管を圧迫することで静脈還流を促進されたものと推測される。静脈還流の増大によって、上体の血圧が上昇し、大動脈部にある圧受容器を刺激、孤束核へと投射され、疑核を亢進することで心臓の副交感神経活動を賦活させる。その結果心拍数が低下するような経路の存在が知られている。すでに申請者らの実験室内における生理学的研究により、姿勢変化や一定筋力負荷時において本研究結果となることが予測される結果を得ていた。本実験によって得られた結果は、これまでに得られた実験結果を支持する結果であり、仮説が正しいことを科学的に証明するための一助となる。 申請段階では、着圧段階を変化させた際の心臓自律神経系活動の変化について検討するための予定を記述していた。今回の実験では、強着圧と弱着圧の2段階での着圧効果しか観察しておらず、当初予定していた着圧と心臓自律神経系活動との関係性についての研究は、まだ十分には取り組めていない。しかし、自転車エルゴメータを使用して、実際の運動時において弱着圧靴下より強着圧靴下の方が心拍数の低下と副交感神経系活動の亢進が観測された点については重要なデータが得られたと考えている。運動時において心拍数の低下については、いくつかの研究報告がみられたが、自律神経系活動への効果を認めた論文はない。 以上より、全体的な研究進捗としておおむね順調に推移していると考えてよい。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では若年健常男子学生を対象に自転車エルゴメータ運動時における強着圧及び弱着圧靴下着用時の心拍変動による心臓自律神経系活動及び心拍数、また大腿部筋群として大腿直筋及び大腿二頭筋外側頭の筋活動を筋電図により評価した。結果として、強着圧靴下着用時の方が、弱着圧靴下着用時よりも心拍数の有意な低下が、段階的負荷時及び回復過程において認められた。また、心臓自律神経系活動についても危険率を0.1としたものの、有意な程度に強着圧靴下着用時の方が心臓自律神経系活動が総体的に上昇する傾向を示した。つまり、靴下着圧は適切な血圧調整のために静脈還流を促し、血圧低下を抑止する効果を担っており、心臓への負担を軽減する可能性を示唆した。また、大腿部筋群についても筋電図により振幅情報の比較により靴下着圧効果が認められるか観測を実施した。その結果、大腿部筋群は下腿部の靴下着圧に影響を及ぼさない可能性が示唆された。 今後実施すべき研究として、今回の研究では大腿部の筋活動を計測したが、本来であれば下腿部の筋の状態を観測すべきである。靴下着用時では下腿部の筋電図を測定することは難しかたっが、着圧衣をサポーター型にすることで下体の筋電図を同時に測定できるように工夫することとする。また、着圧段階をさらに増やして、より詳細な着圧強度と自律神経系活動との関係を明らかにする。 着圧強度と自律神経系活動との関係が明らかになり時間的に余裕があれば、実際のグランドでのランニング等における効果が認められるかについても検討していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度において測定実験を実施したが、現在手持ちの消耗品を使用したことにより残額が発生した。 次年度においても測定実験はひきつづき実施するため、測定実験を実施する際に消耗品は必要となるため消耗品購入に充てる予定である。
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