現在、学校教育において熱中症予防に役立つ知識を学ぶ教科や機会は点在化しており、熱中症予防としての効果を期待するには決して十分とは言えない。実際、熱中症予防の有用性を考える上では、①自己の健康観察を通して自分自身の健康状態を的確に把握することをはじめとして、②曝露される環境要因の把握や評価、③熱中症により生じる各症状の実感による自己判断と回避の行動選択など、児童・生徒が教科を越えた知識の動員のもとで主体的に行動選択ができるようになることが必要となる。そこで本研究では、「熱中症予防のための一体型教育プログラム」を開発し、実際に学校現場において実施することにより、その効果を検証した上で、一般の教育現場への普及を図ることを目的とする。 初年次、中学生を対象に簡易的な暑熱模擬環境の体験用セットを使用した授業を実施し、2年次には熱中症に関する事前アンケートより得られた情報の集計データを主な教育材料とし、生徒自身に熱中症につながる環境条件を割り出すことから授業を展開する形を試みた。さらに家庭科授業と連携することで、水分補給について実習する機会を用意し、生徒自身が自分にあった水分補給法(種類や量)について主体的に考える機会を提供した。それらをもとに、3年次においては新型コロナウィルスの感染予防の観点から、授業の形態に制限がある中で、遠隔授業でも対応できるような資料等を作成した。また体温測定が日常化してきたことを利用し、暑熱環境下での体温の変化やサーモグラフィーを使用した輻射熱の理解を促す授業展開を行った。その結果、熱中症予防に対する理解度には向上が見られ、特に日々の生活リズムを大切にするということへの関心度を高めることができた。保健の教科書の改訂により熱中症予防の観点がより含まれた内容が展開される状況下において、本研究は有用性のある授業プログラムを提供する一助になったと考えられる。
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