研究課題/領域番号 |
18K10934
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
数馬 広二 工学院大学, 教育推進機構(公私立大学の部局等), 教授 (30204407)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 馬庭念流 / 免許 / 目代 / 世話役人 / 伊香保額論一件 |
研究実績の概要 |
馬庭念流は群馬県高崎市吉井町馬庭で、16世紀末から現在まで400年以上続く剣術流派で、江戸時代は刀術の実用性を意識し木刀による形稽古を核として、上野国を中心に武蔵国、信濃国、江戸市中へと普及した。本研究では、馬庭念流の普及と定着の仕組みを「世話役人制度の導入」や「破門などによる門人の統制」、「免許の完全相伝制による門人の拡大」という視点で捉え、江戸時代の厳しい身分統制下に存在した剣術流派の存在意義を問うことを目的としている。 令和元年度の研究成果の一部を、日本武道学会第52回大会(2019年9月5日 於:國學院大学)で発表した。その結果は、1.18世紀中期以降、馬庭念流は「世話人-行司-目代」という組織化が進み、門人を獲得する盤石な体制が整い、このうち「目代」は「宗家樋口家の名代として出張指導する目代」と「永代免許者の下で永代免許者を支える目代」の2種類があり、目代・佐藤善次の例のように、他流儀との対立を辞せず、自流の入門者拡大を図った者もいたことが判明した。2.「免許者」には宗家から「門弟を取ることを許」され「自前の道場」をもち「自らの道場において目代、行司、世話役人を組織」し「目録発行権をも有し」ていたことが明らかになった。3.「永代免許」の田部井源兵衛の場合、免許を授与される時に800人ほどの門人がおり上野国内で4カ所の神社に姓名額を奉納していた。4.滝沢馬琴『兎園小説』に描かれた「伊香保額論一件」は、馬庭念流宗家16世樋口定雄(1760-1836)の頃、文政6年(1823年)に起こった一件であり、北辰一刀流千葉周作の額奉納を阻止しようと上野国各地および武蔵国幡羅郡などから伊香保に門人が集結した。2つの剣術流派の対立は争闘となり、江戸社会の治安を揺るがす事態となる恐れがあった。5.一方、馬庭念流の門人の行動は、「武」の集団となり得る側面を期待された側面も見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、馬庭念流の普及と定着の仕組みを「世話役人制度の導入」や「破門などによる門人の統制」、「免許の完全相伝制による門人の拡大」という視点で捉え、江戸時代の厳しい身分統制下に上野国の在地に存在した馬庭念流の存在意義を問うことを目的としている。 令和元年度研究の進捗の成果を日本武道学会第52回大会(2019年9月5日)で発表することが出来た点や「伊香保神社奉納額一件」の分析により、令和2年度の研究方針が明確化できた。このことから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度は、「伊香保神社奉納額一件」の分析を通して、伝統的な木刀稽古を行い、他流試合を禁止してきた馬庭念流と、竹刀、剣道具を利用し他流試合を辞さない北辰一刀流との対立は喧嘩にとどまらず争闘となったことを明らかにした。争闘になったことで江戸社会の治安を揺るがす事態となる恐れがあり、前橋藩から出動がなされたのであった(樋口家文書「4月22日 馬庭村松本定八から樋口十郎右衛門(定雄)への書簡」)。この一件は、上野国在地にいた馬庭念流の門人の強い結束力を内外に示したのである。これが慶応4年(1868)に関東取締出役・渋谷鷲郎の要請を請け馬庭念流宗家樋口定廣が門人たちと結成した「剣武隊」名簿の提出につながってゆく。しかし幕末のこの結束は、馬庭念流江戸道場が千葉周作ら江戸三大道場の中での競合という時期を経ての結束でもあったと考えられる。 そこで、令和2年度研究では馬庭念流の継承と発展を支えた要因について、これまであまり分析できなかった江戸道場と上野国馬庭村の宗家道場とのつながりを明らかにしたい。そのために①江戸での出張道場の開設、②元文5年(1740)・相馬弾正少弼宅での演武(樋口家文書『元文五年庚申八月二二日 相馬弾正少弼様江被二召呼一候節覚書』)、③幕府・諸大名・諸家への演武における目代や世話人の役割、④江戸と馬庭における「奉納額の集金システムの構築」などの事例を分析する。以上の①~④を通して「武の集団」として実用性を評価された慶応4年(1868)の「馬庭念流剣武隊」結成に至る経緯を、本研究のテーマ「馬庭念流の普及と定着の仕組み」から明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
「次年度使用額」が出た理由は、2月、3月に新型コロナウィルス蔓延により、予定していた調査が不可能になったことによる。2020年はこの費用を使用し、調査することを計画している。
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