水難事故は、生命に直結する重大事故につながるケースが多く、水難者に対する死者・行方不明者の割合が著しく高い。中学生以下の水難事故による死者・行方不明者の場所別構成比は、海や川などの自然環境下の水域の割合が高く、水難時に有効な技能を身に付けさせるだけでは十分な対策とは言えない。本研究では、水難事故の未然防止を企図した授業を設計し、予防行動の意図に影響を及ぼす要因に対する効果を測定した。まず、小学6年生94人を対象にプールでの着衣泳を実施し、授業の直後効果と50日後の残存効果を分析した。その結果、プールでの着衣泳によって、脅威への脆弱性、脅威への深刻さ、反応効果性の三要因に対する直後効果を確認した。この結果は、着衣泳の実習を経験することによって、未然に水難事故を回避するための行動を促す意識に対する影響を確認した点で意義が認められる。しかしながら、残存効果は、どの項目にも認められなかった。次に、中学1年生52人を対象に河川での水難事故防止学習を実施し、授業の直後効果と50日後の残存効果を明らかにした。分析の結果、河川での水難事故防止学習によって、脅威への脆弱性、脅威の深刻さの二つの要因に対して授業の直後効果と残存効果を確認した。この結果は、水難事故の多発する河川という実際的な場面での直接体験による教育の効果は、ある程度の期間持続することを示唆した。学校における水難事故防止対策の内容は、水難時に有効とされる技能面が強化されている。本研究の結果から、水難事故の未然防止に影響を与える要因に対しては、河川という自然環境下の水域で実習を経験させることによってプールで着衣泳を実施する際に認められなかった教育効果の持続性を確認した。水難事故防止を企図する授業を設計する際には、水難時に有効とされる技能だけでなく、学習者の意識に対する影響についても考慮し、内容及び方法について検討する必要があると考えられる。
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