ヒトが運動を産出するとき、視覚や聴覚などから周辺環境の情報を授受し、合目的な運動となるように、知覚と身体運動を協働させている。このような視点に基づいてヒトの運動制御を解明するアプローチは非線形力学系理論に依拠し、協働の現象について様々な知見を得てきている。他の理論的枠組みでは、視覚情報が聴覚情報に対する錯覚の現象が確認されている。本研究では、これらの理論的枠組みを統合し、これら3つのモダリティ(視・聴覚、運動感覚)の関係(クロス・モダル)を実験的に検証した。これは、ヒトが身体運動を産出する際の身体システムにおけるクロス・モダルの構造を明らかにすることを目的とした。この検証によって、規則性に対する変化の差異を明らかにすること、そして身体運動の複雑性が時間依存した系であることを解明するデータを取得した。この結果は、従来の運動制御や運動学習の研究にはなかった創造性を示唆している。これを検証するための課題として、初年度には、本課題の2つの実験測定で共有する正確な時間間隔で刺激呈示と計測を実施する実験装置準備と装置プログラミングを準備し、本申請者を測定対象として装置の検証を実施した。2から3年目に、この装置を用いて、リズム教示としての左右の耳にそれぞれ呈示する音声(ビープ音)、PCディスプレイ上で左右に並んだ円形マーク(緑色)を呈示する視覚刺激を、同期・非同期で呈示し、示指の屈伸の運動頻度(1Hzから0.25Hzずつ3.5Hzまで11段階で漸増させる)との関係を検証した。4から5年目に、これらの測定条件に、足部での反応を加えることで二重課題に拡張し、運動制御におけるクロス・モダルと注意水準との関係を検証した。最終年度には、これらの課題を総括し、学術論文として投稿する取り組みをした。
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