最終年度である令和3年度では健常成人を対象として,ペアでの協力課題の課題成績に関わるコミュニケーション要素を検証した。 具体的には,盤面を独立して操作可能な縦軸と横軸をペアそれぞれが傾け,盤面に置かれたボールをゴール地点まで道順に沿って移動させる課題をペアで協力して実施した。各ペアの関係性として親密度を測定し,課題実施中および休憩中の様子をビデオ撮影し,対象者の会話量,アイコンタクトの回数をカウントした。さらに,各対象者の心拍数を計測し,ペアにおける心拍数の変動の一致性を算出した。また,騒音計により各ペアの会話声量を計測した。 その結果,実施中および休憩中のペアの親密度にかかわらず2人の会話時の声量が小さいほど、また休憩中の会話時間が短いほど課題成績が良好であることが示された。ペアでの協力作業には言語的・非言語的コミュニケーションを増大させ,円滑なコミュニケーションを取ることにより成績が向上すると考えたが,実際にはコミュニケーションが少ない方が良好であった。このことは,今回の課題ではお互いが相談し合うよりも自身の役割に集中することによって課題成績が向上したのではないかと考えられる。 また,男女ペア別にみると,男性ペアのみ休憩中の会話時間に有意な負の相関関係が認められた。さらに,男性ペアでは心拍一致係数が低いペアほど,女性ペアでは心拍一致係数が高いほど課題成績が高い傾向を示した。男性には「目的を達成することに徹する」という特徴があり,今回の課題でも他者とのコミュニケーションよりも自身の役割に集中するような傾向が強かったのではないかと考えられる。一方で,女性には「悲しみや喜びを相手と共感する」という特徴があり,ペア同士のコミュニケーションを高め,緊張感なども共感することで課題成績が向上したことが考えられる。実際に,女性ペアでは共に笑っている様子が多く見られていた。
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