研究課題/領域番号 |
18K10955
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
柳原 大 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90252725)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 小脳 / 姿勢制御 / 学習 / 予測 / モデル予測制御 |
研究実績の概要 |
本研究は、様々な身体運動及び種々のスポーツにおける動きの基盤となっている予測的姿勢制御に関わる神経機構の本質的な解明を目指している。この神経機構における構成要素としては、大脳皮質運動関連領域のみならず、小脳及び脳幹・脊髄などがあげられるが、特に小脳がどのようにその学習過程に機能しているのかについて明らかにすることを目的とする。本研究では、ラットを対象に姿勢への外乱に対する先行刺激を与え、学習することによって外乱を予測できる条件付け学習課題を構築し、小脳傷害の影響と小脳プルキンエ細胞の発火活動の動態について調べるとともに、ラットの身体力学モデルとモデル予測制御による姿勢制御の学習モデルを構築し、構築した姿勢制御の学習モデルの挙動と、実験で得られたラットの姿勢の学習過程を比較検証することで予測的姿勢制御における小脳の役割について調べている。 そこで、本年度はラットが床反力計内蔵型傾斜台において後肢2足による直立姿勢を維持している際に、光刺激による合図の一定時間後にラットが乗っている台が後方に傾斜する外乱を加え、条件付け学習としての実験パラダイムを構築した。その際の身体各部の動作については高速度カメラによってモーションキャプチャし、床反力計のデータとともに解析した。結果として、健常ラットにおいては、概ね20-40試行後に光刺激と台傾斜による外乱の関係を学習し、外乱に対して平衡姿勢を保つことが達成された。さらに、学習を獲得したラットに対して小脳虫部の局所破壊を行うと、外乱に対する平衡姿勢の維持が困難になった。小脳傷害ラットの動作は健常ラットにおける学習前の不安定な動作とよく似ており、学習した姿勢制御機能が失われていることを示唆していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の後半から、小脳虫部の標的領域におけるニューロン活動の電気生理学的記録及び解析を行う予定であったが、小脳虫部の局所破壊後の運動学的実験及びその後の組織化学的実験に遅れが生じたために、電気生理学実験は予備実験レベルに留まった。
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今後の研究の推進方策 |
ラットの姿勢制御学習に関わる小脳虫部内の責任領域をさらに細分化し同定する方向で微小傷害実験を進めるとともに、その領域のプルキンエ細胞の発火活動を電気生理学的に記録し解析する。外乱に対する姿勢制御学習における制御パラメータについては、UCM(Uncontrolled Manifold)解析なども適用して調べる。また、ラットの身体力学モデルとモデル予測制御による姿勢制御の学習過程の数理モデルを構築し、構築した姿勢制御の学習モデルの挙動と、実験で得られたラットの姿勢の学習過程を比較検証することによって、ラットにおける姿勢制御の学習における小脳のメカニズムについて構成論的にも調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に行う予定であった小脳の電気生理学的記録・解析に必要とされた電極の製作・購入費用分が実験の遅延に伴って未使用であったが、次年度における電極の購入に必要とされ、適宜使用する。
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