本研究の目的は,スポーツ領域における適応的熟達化について創造性と信念の視点から検討し,身体技能創造に向けた選手の探索を促すコーチングモデルを構築することである。今年度は,身体技能創造に対する指導者の信念について明らかにすることを目的として,小学校,中学校,高校年代の優れた指導者を対象として,深層的・自由回答的インタビュー調査を実施した。分析の結果,優れた育成年代の指導者の信念を説明する主な概念として,「長期的な視野」,「競技の本質的理解」,「特性をふまえた独自性育成」,「進化する戦術へ適応」,「個性の理解」,「目指す方向性の理解」,「挑戦を受容する場の設定」,「専門的な技能獲得の下地づくり」,「多様な選択肢の提示」,「探索の資源提供」,及び「練習の意義の明確化」が形成された。優れた指導者は,長期的な視野のもと,選手に競技の本質を理解させ,選手の特性をふまえた独自の身体技能を創造させるべきだと考えており,それは,選手が絶えず進化する戦術へ適応できるようにするためであった。また,身体技能の指導は,選手一人ひとりの特性を理解することが前提となる。選手に備わる独自性の源を観察し,選手自身に目指す方向性を理解させるとともに,チーム全体での共通理解をはかることが必要だと考えていた。各選手の目指す方向性をチームで共有することで,個々の挑戦を受容する場の設定が可能になる。専門的な技能創造の下地づくりをした上で,挑戦が受容される環境の中で,多様な選択肢の提示をしたり,探索の資源を提供したりすることで,選手自身に練習の意義を探索させる取り組みを行っている。以上のことから,優れた育成年代の指導者は身体技能の性質を進化的と捉え,選手自らの探索によって創造するべきであるという認識的信念をもとに,選手が挑戦しやすい環境を用意し,その環境の中で身体技能創造に向けた探索を促していることが明らかとなった。
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