効率的で素早い移動動作には、力の抜き(筋活動の減少)が含まれている可能性が示唆されているが、報告は少ない。剣道や空手道では、前方への鋭い踏み込みとともに攻撃技を繰り出す踏み込み動作が移動動作として行われ、その速度や力強さは勝敗に大きく影響する。無線筋電図センサと光学式モーションキャンプチャを用いた我々のこれまでの研究において、踏み込み動作開始直後に、前脚大腿部筋電図活動が休止し、その間に腰部垂直方向の変位において下降が確認された。腰部は下降のピーク後にその状態をわずかに維持した後に上昇に転じ、その途中で攻撃(剣道の面打ちや空手刻み突き)のインパクトがあった。この筋電図の休止と腰部の下降を効果的に獲得するための方法に着目し、後足を段差に置いた状態で踏み込み動作を行わせ、その有効性を検討したところ、段差は腰部の下降をより容易に行えるように導く可能性が示唆された。さらに、腰部の下降を導く、踏み込み動作に伴う前脚の力の抜きが、脳の運動準備的な活動に含まれるかどうかを調べるために、脳波を用いて、行われる運動の準備状態を反映する運動関連脳電位(MRCP)の記録を行った。空手の刻み突きの踏み込みに伴う、前脚外側広筋(VL)の筋電図活動の消失に同期させて脳波を加算平均した結果、中心部優位に明瞭なBereitschafts potentialとnegative slopeが観察された。2023年度は後脚VL筋電図の開始時点を基準に脳波を加算平均して、前脚VLの筋電図活動消失に同期したMRCPとの比較を行った結果、前脚VLの筋電図活動消失に同期したMRCPに特徴的な頭皮上分布と変化パターンが得られる可能性が示唆された。
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