身体の協調運動の神経機構を明らかにすることは、健常時の運動学習の仕組みの理解を促進するだけでなく、身体損傷後の再適応機構に関する包括的な原理の解 明に不可欠である。協調運動の理解のカギは出力としての筋のまとまりがどの程度、どのように適切なタイミングで動員されるかを明らかにすることにある。この問題に取り組むため、覚醒行動下でのマカクサルを用いて、筋の協調構造が動的に変化する状況を作り出すことで筋間協調の再適応過程を観察し、その過程に重要と推測される中脳に位置する小細胞性赤核に焦点を当て、筋間協調の原理を明らかにすることを目指している。本研究により複数の筋間モの再適応に関わる 神経機構が明らかになれば、身体運動の協調性を支える神経基盤の理解だけでなく、小細胞性赤核へ出力する小脳歯状核の情報処理の仕組みの一端が明らかにな ることが期待され、小脳の情報処理の原理理解への手がかりとしても重要な意味をもつ。 上肢を用いた到達把握運動課題を遂行中のマカクサルから、中脳赤核から細胞の電気生理学的活動を記録することに成功した。 これらの複数の細胞活動の同期ー非同期を到達把握運動の異なるフェーズで評価すると、運動中には同期を示すが、運動を終えた数十ms後に顕著な非同期発火を示すことを発見した。 これは上流の小脳皮質プルキンエ細胞から小脳核へ送られる複雑スパイクがが非同期に発火し、出力先の赤核細胞に影響をあたえていることと考えられ、小脳モジュール間の相互作用を明らかにする重要な手がかりとなる。今後この非同期発火をイベントとして、その前後の筋活動の変化を観察することで適応の推移を明らかにしていく。
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