研究課題/領域番号 |
18K10991
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
森本 恵子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (30220081)
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研究分担者 |
鷹股 亮 奈良女子大学, 生活環境科学系, 教授 (00264755)
内田 有希 奈良女子大学, 生活環境科学系, 助教 (50634002)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 月経周期 / エストロゲン / 口腔内脂肪酸感受性 / 脂肪嗜好性 / 脂肪酸受容体 / 性差 / 閉経モデルラット / 社会的心理ストレス |
研究実績の概要 |
2019年度は、若年女性9名と若年男性11名を対象として、口腔内脂肪酸感受性・脂質嗜好性・脂質摂取量を測定し、唾液の口腔由来細胞の脂肪酸受容体mRNA発現について検討した。2018年度と2019年度を合わせた若年女性20名と男性24名の測定結果について、性差や女性の月経周期性変化を評価した。一方、動物実験では、雌性ラットにおけるエストラジオ―ル(E2)の脂質摂取量への作用だけでなく、プロゲステロン(Pro)の作用およびE2とProの併用が脂質摂取量に与える影響についても検討を加えた。また、慢性の社会的心理ストレス(chronic psychosocial stress:CPS)下での雌性ラットの摂食及び体重変化にE2が影響を与える可能性について検討を開始した。 (1)口腔内オレイン酸感受性に性差はないことが確認された。また、若年女性では排卵前期にオレイン酸感受性が高いという月経周期依存性変化があることが判明した。一方、脂肪嗜好性には月経周期性変化は見られず、オレイン酸感受性との間にも明確な関連は認められなかった。しかし、舌への脂肪刺激後にはオレイン酸感受性と脂肪嗜好性との間に相関関係が見られた。なお、血漿エストロゲン・プロゲステロン濃度と脂肪嗜好性との関には相関関係は認められなかった。 (2)閉経モデルである卵巣摘出(OVX)ラットへのPro補充は経時的な高脂肪食摂取量や体重増加量に影響を与えなかった。一方、絶食後の高脂肪食摂取量はE2補充群では抑制されたが、Pro補充群やE2・Pro併用補充群では抑制されなかった。したがって、Proは長期の摂食調節には関与しないものの、短期的にはE2の摂食抑制作用を阻害する可能性が示唆された。また、OVXラットにおけるCPS下のエネルギー摂取量および体重増加量の減少をE2補充は抑制するとの結果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)若年女性を対象とした月経周期3期のプロトコールを2019年度にも継続し合計20名の被験者でデータ解析を行い、口腔内オレイン酸感受性や嗜好性、脂肪摂取量などを検討することができた。若年女性では、口腔内オレイン酸の感受性は月経周期に依存して変動することを統計学的に有意な差として実証できた。また、男性被験者も合計24名に増やし、口腔内オレイン酸感受性および脂肪嗜好性を女性(月経期)と比較した結果、性差はないことが確認できた。また、口腔粘膜由来細胞における脂肪酸受容体CD36, GPR120あるいはエストロゲン受容体(ER)mRNAを測定した。その結果、CD36 mRNAは72%の被験者で検出可能だったが、ER alpha mRNAは45%で検出できるのみで、他は検出できなかった。今後も例数を増やす予定である。 (2)雌性ラットにおける脂肪摂取調節におけるエストラジオール(E2)の作用について研究を進めるとともに、閉経モデルである卵巣摘出ラットにおいてプロゲステロン(Pro)補充やE2・Pro併用補充を行い、ProはE2の脂肪摂取抑制作用を短期的は打ち消すが長期的には影響を与えないことを見出した。さらに、慢性の社会的心理ストレス(CPS)下におけるE2のエネルギー摂取量への影響を検討する実験系を確立することができた。この実験系では、Long-Evans系ラットが居住するケージにWistar系ラットを入れて同居させた後に、両者を網の仕切りで隔て放置するという「居住者―侵入者パラダイム」を用いた。これまで、雌性ラットではこのような方法でのCPSに関する研究報告がなかったが、今回、OVX群ではCPSにより摂食が抑制されるという慢性ストレス反応が確認できた。以上から「(2)おおむね順調に進展している。」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画はほぼ順調に進んでいるが、今後は、例数を増やすとともに、以下に示す新規のプロトコールを加え、女性の脂肪嗜好性や脂質摂取量の調節に女性ホルモンはいかなるメカニズムでどのような影響を与えるのか解明を進める予定である。 (1)口腔内脂肪酸感受性・脂肪嗜好性・脂質摂取量に対する性差、月経周期、閉経の影響を検討し、女性ホルモンの役割を解明する。2020年度は若年男女を対象とした実験においては、安静レベルの口腔内脂肪酸感受性に留まらず、脂肪や糖による口腔内刺激により脂肪酸感受性がどのように変化するのか検討する。これによって、食事摂取からの時間経過中に脂肪酸感受性がどのように変化するのか、食事中の栄養素の組成が脂肪酸感受性に影響を与える可能性があるのか、などの疑問を明らかにするデータを得たいと考えている。 (2)雌性ラットを用いた研究では、慢性社会的心理ストレス(CPS)下での摂食調節におけるエストラジオール(E2)の作用とそのメカニズムについて検討を進める。2019年度に居住者―侵入者パラダイムを適用したストレス負荷法が有用であることが確認できたので、卵巣摘出(OVX)ラットを用いて、14日間のCPSによる摂食量・体重変化を経時的に測定し、E2補充の摂食維持作用を確認するとともに、そのメカニズムについて検証する。まずは、このE2作用にグレリン、コレシストキニン、グルコース様ペプチド1などの消化管ペプチドが関与する可能性について検討する予定である。これらによって、閉経モデルラットにおけるE2補充は、安静レベルだけでなく、CPS下でもエネルギー摂取量の恒常性維持に寄与する可能性を検証できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担者との共同研究が順調に実施でき予算(物品費)に余裕が生じたため次年度への繰り越しが可能となった。繰越し分を次年度予算の物品費(試薬代など)および旅費(学会で成果発表・議論など)に繰り入れることにより、女性ホルモンの脂肪摂取調節作用とそのメカニズムの解明を目指す本研究課題の効果的な推進を計画している。
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