研究課題/領域番号 |
18K10995
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
藤野 貴広 愛媛大学, 学術支援センター, 准教授 (40292312)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アポE / HDL / リポタンパク受容体 |
研究実績の概要 |
アポE4は散発性アルツハイマー病の主要な危険因子であるが、アルツハイマー病発症における役割についてはほとんど明らかにされていない。脳内におけるアポEはコレステロールなどの脂質と複合体を形成し、いわゆるアポE含有リポタンパク(アポE-nHDL)として存在し、アポEを認識する受容体を介して神経細胞に取り込まれることでグリア細胞からコレステロールの供給を受けていると考えられている。 我々は、生体の脳内に近い形の糖鎖修飾を受けたヒト・アポE及び糖鎖修飾を受けないアポE変異体の発現系を確立し、これらを大量に得る事に成功した。さらに、In vitroにおいてこれらアポEをアポE-nHDLへと効率よく変換する系を確立し、純粋なアポE-nHDLを比較的多量に得ることができた。精製アポE-nHDLを様々な神経損傷モデルのマウス脳室内に注入し、その動態を解析したが、神経細胞へのアポE-nHDLの取込みは観察されなかった。 一方、アルツハイマー病においては何らかの機構によって、タウ蛋白のリン酸化の亢進又は脱リン酸化の減少が起こることによって神経原繊維変化が引き起こされると考えられている。線維化タウ蛋白のシードと共に家族性タウオパチー変異(hTau P301L)をもつタウ蛋白を神経由来の培養細胞(Neuro2aやSH-SY5Y細胞)などで発現するとタウ凝集体を細胞内に形成する。そこでレンチウイルスによる家族性タウオパチー変異タウ蛋白を線維化タウ蛋白のシードと共に神経由来の培養細胞に発現させ、細胞内におけるタウ蛋白のリン酸化状態を観察した。アポE及びアポE-nHDLを同時に取り込ませた際のタウ蛋白の変化(線維化やリン酸化状態)を観察したが、アポE-nHDLを取り込んだ細胞でのタウ凝集体やタウ蛋白のリン酸化状態に変化は見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
マウス脳室内に様々な濃度の蛍光標識アポE-nHDLを注入したところ、神経初代培養細胞とは異なり、in vivoにおいてアポE-nHDLは神経細胞にほとんど取り込まれないことが明らかになった。そこで、これまでの報告を参考に神経損傷モデルを使用する必要があると考え、様々な濃度のカイニン酸投与による海馬神経損傷モデルを作成し、同様の実験を行ったが、蛍光標識アポE-nHDLの神経細胞への取り込みは観察できなかった。また、アルツハイマー病患者の病理組織像で観察される神経原繊維変化の基本骨格は高度にリン酸化されたタウ蛋白であることから、タウ蛋白の高度リン酸化による神経原繊維変化の原因とアポE4との関連を解析した。家族性タウオパチー変異(hTau P301L)をもつタウ蛋白を神経由来の培養細胞(Neuro2aやSH-SY5Y細胞)に発現させ、線維化タウ蛋白のシード又はアポE3-、アポE4-nHDLを取り込ませた神経細胞のタウ蛋白のリン酸化状態を特異抗体を用いて観察したが、アポE3-、アポE4-nHDLを取り込ませた細胞でのタウ凝集体やタウ蛋白のリン酸化状態に変化や違いは見られなかった。 昨年度も、新型コロナウイルスによる再三の感染拡大を受けて、研究活動の大幅な制限や担当授業の遠隔化対応に時間が取られたため、殆ど研究を進展させることが出来なかった。
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今後の研究の推進方策 |
カイニン酸投与による海馬神経損傷モデルやドライアイスによる脳損傷モデルを作成し、アポE-nHDLを脳室内に注入することでin vivoにおけるアポEの動態を解析したがその取り込みは全く観察されなかった。これらの結果は生体脳では、たとえ神経細胞が損傷を受けたとしてもアポE-nHDLは殆ど取り込まないことを示した。一方で、マウス野生型由来のグリア初代培養細胞でアポEによるコレステロール排出能を観察すると、アポE2、E3、E4共に違いが認められない事を発見した。通常、LDL受容体を発現する細胞でコレステロール排出能を観察するとE3及びE4の排出能は見かけ上、E2の半分程度となる。これは、アポEからアポE-nHDLが形成されると、アポE3及びアポE4-nHDLはLDL受容体によって取り込まれてしまうためである。実際、野生型のグリア細胞はLDL受容体を発現しているにも関わらず、アポE3及びアポE4-nHDLの取り込みはほとんど観察されなかった。すなわち、生体脳の神経細胞でも同様のメカニズムでアポE -nHDLが取り込まれない可能性が考えられた。そこで、グリア細胞におけるLDL受容体の発現調節メカニズムやコレステロール生合成系の発現調節及びLDL受容体を強制発現させた場合のアポE -nHDLと取込みとコレステロール排出能の観察を行うことで、グリア細胞のアポE -nHDL取り込まないメカニズムを解析する。また一方で、海馬及び大脳皮質由来の神経初代培養細胞ではアポE3及びアポE4-nHDLを盛んに取り込むことが観察されている。すなわち、成熟した神経細胞と神経初代培養細胞でのコレステロールによる遺伝子発現調節の違いについても解析し、神経細胞及びグリア細胞の両面から研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大の影響で研究に大幅な遅延が生じたため、本助成事業の期間延長を申請し、受理された。延長期間内に繰越額を使用する予定。
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