近年、ミトコンドリアストレス応答と長寿の密接な関わりが線虫やマウスにおいて明らかになりつつある。ミトコンドリアストレス応答とは、ミトコンドリアに負荷された軽度ストレスに対抗するために核遺伝子の発現プログラムが誘導される現象であり、結果として細胞や個体のレジリエンスが向上すると考えられている。本研究では、ミトコンドリアストレス応答を介して動物個体の寿命を延伸する医薬品化合物を同定することを目的とした。 我々は、ミトコンドリアストレス応答を活性化して個体の寿命を伸ばす化合物を見つけるため、線虫C. elegansを用いたスクリーニングを実施した。C. elegansは成虫でも体長1 mmほどの小さな動物であり、体が透明なため、生体内の反応を効率よく観察できるという利点がある。また、ヒト遺伝子の約60-70%について相同な遺伝子を持ち、寿命が最大でも約3週間と短いことなどから、老化研究の代表的なモデル動物の一つでもある。本研究では、ミトコンドリアストレス応答の活性化を緑色蛍光タンパク質GFPで捉えることができる線虫を用いて、約3000種類の医薬品等化合物を評価した。その結果、高血圧治療薬であるメトラゾンがミトコンドリアストレス応答を活性化させることが明らかとなった。メトラゾンを投与した線虫の寿命を測定すると、投与しない線虫に比べて寿命が長くなった。また、メトラゾンによる寿命延伸効果は、ミトコンドリアストレス応答経路を介して発揮されることも確認した。また、メトラゾンの利尿剤としての標的タンパク質SLC12A3の線虫ホモログがその長寿作用に必要であることも明らかにした。
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