研究課題/領域番号 |
18K11001
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
井内 勝哉 成蹊大学, 理工学部, 助教 (40553847)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 細胞死 / 脂質過酸化 / 脂肪酸 |
研究実績の概要 |
生体膜に含まれる不飽和脂肪酸は、酸化ストレス時において非酵素的に酸化され多様な機能を有する「酸化脂肪酸」に変化する。本研究は、非酵素的に産生する酸化脂肪酸を利用し、細胞生存または細胞死への細胞運命を決定する機構を明らかにするものである。また、活性酸素種や細胞内カルシウム量の変動に応答し細胞死を制御する「ミトコンドリア」に着目し、複雑な細胞死の分子機構を解明する研究である。 酸化脂肪酸のひとつであるプロスタグランジンなどを用いた研究により、細胞に炎症・細胞死などの生体反応を誘導することが多く報告されている。一方、複数の酸化脂肪酸を使った細胞応答に関する知見は少ない。生体内では一種類の酸化脂肪酸が機能しているわけではなく、酸化ストレス時は、同時に複数の酸化脂肪酸が産生され、協奏的にオルガネラに対して機能している。しかしながら、複数の酸化脂肪酸が存在した場合の細胞およびオルガネラの反応について、これまで研究されていない。 本研究では、複数の酸化脂肪酸を使って、細胞やミトコンドリアの応答について解析した。不飽和脂肪酸としてdocosahexaenoic acid (DHA)、 eicosapentaenoic acid(EPA)、linoleic acid(LA)を使用し、飽和脂肪酸としてpalmitic acid(PA)を用いた。また、これらの脂肪酸の自動酸化により生じた酸化脂肪酸のがん細胞に対する細胞死誘導活性を解析した。さらに、細胞死を制御する化合物について探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪酸および酸化脂肪酸の細胞死誘導メカニズムを解析した結果、いくつかの結果を得た。 まず、酸化DHAによって誘導されるヒト単球性白血病細胞株THP-1の細胞死を、全カスパーゼ阻害剤(zVAD-fmk)が抑制する結果を得た。また、OxDHA処理したTHP-1細胞において、カスパーゼ3/7の活性化や細胞表面へのフォスファチジルセリンの露出を確認した。これらの結果より、OxDHA処理により生じる細胞死において、アポトーシスシグナルの活性化が示唆された。次に、DHAおよび酸化DHAで処理したヒト前骨髄性白血病由来株HL-60において、ミトコンドリア膜電位の低下が生じた。また、ミトコンドリア内に存在するシトクロームcが、DHAおよび酸化DHA処理時間依存的にミトコンドリアから放出した。また、鉄キレート剤であるディフェロキサミン(DFO)は、DHAによる細胞死を抑制した。一方、抗酸化剤のジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ミトコンドリア膜透過性遷移阻害剤のサイクロスポリンA(CsA)、細胞内カルシウムキレート剤のBAPTA-AMは、DHAによる細胞死を抑制しなかった。さらに、過酸化物価(PV)の異なるLAの細胞死誘導活性を調査した結果、PVの高いLAの方が高い細胞死誘導活性を有した。 このように、脂肪酸および酸化脂肪酸による細胞死やミトコンドリア機能不全の一部を明らかにした。加えて、細胞死を制御する化合物について新たな知見を得た。よって、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究により、脂肪酸や酸化脂肪酸によって誘導される細胞死について、いくつかの新たな知見を得た。しかしながら、それらは断片的な結果であり、まだまだ全様の解明に至っていない。よって、さらに細胞死を制御する化合物の探索を行い、全容の解明につなげる。脂肪酸および酸化した脂肪酸は、細胞死を誘導する活性のみならず、炎症に対する影響も報告されている。よって、脂肪酸や酸化脂肪酸が誘導する細胞死と炎症との関係についても解析する予定である。また、細胞膜の酸化に寄与する活性酸素種や活性窒素種および鉄などの金属についても解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入を予定していた設備備品を購入しなかったため次年度使用額が生じた。生化学実験用の試薬として翌年度使用する。
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