ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、アラキドン酸(ARA)などの多価不飽和脂肪酸は活性メチレン基を持つため、光、熱、金属、過酸化物によって容易に酸化される。そのため、酸化ストレスが亢進した細胞において非酵素的に酸化され、生体機能を制御する酸化脂肪酸(脂質メディエーター)に変化する。産生された酸化脂肪酸は、その反応性や産生量に依存して細胞死に関連するシグナル経路を正と負の両方に制御する。本研究は、脂肪酸、酸化脂肪酸、脂質過酸化を誘導する試薬を使用し、虚血性再灌流障害や神経変性疾患などに関与する脂質過酸化を介する細胞死機構を明らかにするものである。また、細胞死を制御するミトコンドリアや小胞体などのオルガネラに着目し、複雑な分子機構を解明する研究である。さらに、近年注目を浴びる生体膜の脂質過酸化を介した非アポトーシス細胞死のひとつであるフェロトーシスを基軸にして研究を遂行した。最終的に脂質過酸化を介した細胞死の細胞内シグナル伝達ネットワークモデルの構築を目的に研究を行った。本研究により、脂質過酸化依存的な非アポトーシス細胞死においてパイロトーシス様の特徴的な形態変化を示すことや、酸化脂質処理により細胞内にタンパク質を含む凝集体が蓄積する結果を得た。また、抗酸化物質を含むフェロトーシス阻害剤により、これらの細胞死の過程で生じる現象を抑制可能であった。これらの結果は、脂質過酸化を介した複雑な細胞死機構の解明において有用であると同時に、将来的には酸化ストレス関連疾患の新たな治療法の開発に役立つと考えられる。
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