研究課題/領域番号 |
18K11013
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
斉藤 昌之 北海道大学, 獣医学研究院, 名誉教授 (80036441)
|
研究分担者 |
松下 真美 天使大学, 看護栄養学部, 講師 (60517316)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | 褐色脂肪組織 / 朝食欠食 / 食事誘導熱産生 / 肥満 |
研究実績の概要 |
夕食偏重、朝食欠食やシフトワークなど、生活リズムの乱れが肥満・メタボリックシンドローム(以下メタボ)の一因となることが知られているが、そのメカニズムについては不明な点が多い。申請者らは代謝的熱産生の特異的部位である褐色脂肪組織(以下褐色脂肪)のヒトでの評価法FDG-PET/CTを確立し、褐色脂肪の機能低下が肥満を誘発することを明らかにしてきた。本研究の目的は、褐色脂肪の日内リズム変動と肥満との関係を明らかにすることである。前年度までに、褐色脂肪活性を評価済みの若年男性を被験者として、寒冷刺激に対するエネルギー消費、脂肪酸酸化、体温などの変化を朝と夜で測定し、ヒト褐色脂肪活性が日内変動しており、夜に比べて朝の方が活性が高いこととの予備的結果を得てきた。そこで本年度は、これを確定するためにさらに被験者を増やして同様の実験を行い、以下の結果を得た。 1)新たに若年健常成人15名を被験者として褐色脂肪活性をFDG-PET/CTで評価し、高活性群9名と低活性群6名に分類した、2)朝8時と夜7時に室温27度及び寒冷暴露後(薄着で2時間)で呼気分析を行い、褐色脂肪に依存する寒冷誘導熱産生量や脂肪酸酸化量を算出したところ、褐色脂肪高活性群では夜に比べて朝の方が有意に高かったが、低活性群では変わらない、3)呼気分析と同時に、褐色脂肪活性を反映する鎖骨上窩部の皮膚温を測定したところ、褐色脂肪高活性群では夜に比べて朝の方が有意に高かった。 これらの結果は、ヒト褐色脂肪活性が日内変動しており、夜に比べて朝の方が活性が高いことを示している。この結論は、褐色脂肪に依存する食事誘導熱産生についての再解析によっても裏付けられ、朝食欠食による肥満・メタボの誘発が褐色脂肪の活性化不足に起因することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1、エネルギー消費の自律的調節に関わる褐色脂肪の活性が、冬に高く夏に低下するという季節変動を示すことは知られていたが、本研究で朝に高く夜に低下するという日内変動を示すことが世界で初めて明らかになった。 2、FDG-PET/CTは褐色脂肪活性を評価する標準法であるが、放射線被爆の問題から朝と昼に続けて行うことは難しい。そこで本研究では、代替法として呼気分析法と皮膚温モニター法を用いた。これらの方法の妥当性については、すでに多くの予備実験で検証済みであり、原著論文として公表したが、本研究でもその有用性が確認できた。 3、データの信頼性を上げるために、30名の被験者、特に褐色脂肪の活性が低い被験者をリクルートする予定であったが、FDG-PET/CT検査の制限のため、15名にとどまってしまった。これに伴い、検査費用が当初予定していたよりも少額となり、次年度へ繰り越すこととなった。
|
今後の研究の推進方策 |
1、褐色脂肪に依存した食事誘導熱産生については、4年前に別の研究プロジェクトで行ったヒューマンカロリメータでのデータ(原著論文として公表済み)を再解析して、朝食後の方が夕食後よりも高いとの結果を得たが、これを確定するために、食事摂取後の熱産生を朝と夜の特定時刻に測定して、褐色脂肪活性との関係を解析し、食事誘導熱産生の日内変動における褐色脂肪の役割を明らかにする。 2、褐色脂肪の日内変動に関わる要因について、時計遺伝子多型や血中ホルモンなどの分析を通して検索する。 3、成果を学会や学術誌に発表する
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究において、被験者への謝金やFDG-PET/CT検査料が大きな割合を占めるが、FDG-PET/CT検査を行う施設において機器(サイクロトロン)が故障し約1か月にわたって使用不能となった。そのため、当初計画していた被験者(30名)の検査が15名にとどまってしまい、検査料や協力謝金が少額となり次年度使用額が生じた。これらは次年度に被験者数を追加しての継続実験に使用する予定である。
|
備考 |
研究成果はNature 572巻、614-619ページ、2019年に原著論文として発表した(上記研究発表、雑誌論文の項を参照)。
|