近年、生体組織の恒常性と腸内細菌叢との関連がクローズアップされている。我々は、特に、血管系の恒常性維持への腸内細菌叢の寄与について検討を試みている。本研究では、標的細胞として血管内皮細胞、血小板および好中球を、中心となる作用物質として、ガス状メディエーターである硫化水素から産生される活性硫黄分子種(RSS)を取り上げた。 主に大腸では、硫酸イオンを電子受容体として硫酸還元菌により硫化水素が産生される。硫化水素は、大腸粘膜上皮細胞で産生される活性酸素種や活性窒素種により1電子酸化を受け、硫黄中心ラジカルとなる。硫黄中心ラジカル種はラジカル―ラジカル付加反応により多硫化水素を形成する。多硫化水素はスルフヒドリル基にサルフェン硫黄を転移し、パースルフィドを形成する。多硫化水素は大腸粘膜細胞、血管内皮細胞、血小板、好中球に作用すると考えられる。まず最初に、細胞内に受動拡散により浸透した多硫化水素の挙動として、細胞内にmMオーダーで存在するグルタチオンとの反応について、HPLCを用いたグルタチオンパースルフィドの簡易型・高感度測定系を確立し、多硫化水素で処理した細胞内に有意にグルタチオンパースルフィド濃度が増加することを明らかにした。次に、循環血中を移行する過程では、血漿成分との反応について考慮しなくてはならない。多硫化水素は活性スルフヒドリル基を有するタンパク質との反応が着目される。例として、血漿中メルカプトアルブミン(300~400μMが存在)のスルフヒドリル基にサルフェン硫黄が転移される反応について検討した。新たに確立したタンパク質中ハイドロパースルフィド基定量方法を血漿アルブミンに応用したところ、アルブミンハイドロパースルフィドの存在を確認した。さらに、本法は細胞内タンパク質のパースルフィド検出にも応用可能であることを確認した。
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