研究課題
松果体ホルモンであるメラトニンは、主として脳内では、N-acetly-N-formyl-5-methoxykynuramine (AFMK)からN-acetly-5-methoxykynuramine (AMK)に代謝されることが知られている。最近我々は、このメラトニンの脳内代謝産物であるAMKが、マウスやフタホシコオロギを用いて、学習後にたった1回の投与で長期記憶を誘導できることを見出し、国内および米国特許を出願した。本研究の最大の目的は、人への展開の基盤を作るために、AMKの含有量の多い食材を探索するとともに、マウスを使って、有効投与時刻の詳細な検討と投与方法の比較検討、さらに効果の持続時間の検討を行い、最適条件を絞り込むことにある。本年度は、AMKの含有量の多い食材の探索を始めた。これまで我々は植物にもメラトニンが存在することを報告(Hattori et al, 1995)しているが、その時に測定した24種類以外に、新たに161種類の食材を選んで、LC/MS/MSを用いて、メラトニン及びAFMKやAMKの含有量を調べた。その結果、メラトニンの多い食材の中には、AFMKやAMKも多い食材も存在するが、メラトニンは多くてもAFMKやAMKは検出されない食材、一方、メラトニンよりもAMKが多い食材などが存在することが分かった。しかし、残念ながら探索した食材の中には、有効効果が期待できるほど大量にAMKを含む食材を見出すことはできなかった。一方、LC/MS/MSの特徴は、目的の物質以外にも多くの物質を同時に測定できることであり、食材におけるAMK検索中に、食材の中にはメラトニンの前駆体であるセロトニンやN-アセチルセロトニンなどを多く含むものが存在することが分かった。そこで、N-アセチルセロトニンを多く含む食材を用いて、メラトニンを人工的に合成するシステムを作り上げた。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、AMKを大量に含む食材の探索を行った。植物にもメラトニンが存在していることは1995年の我々の報告以降多くの論文が発表されているので、これまで調べてきた食用植物をさらに広げるとともに、ハーブ類や嗜好食品の食材などを含めた多くの食材を対象に、LC/MS/MS(当研究室に所有)を用いてメラトニンやAMKを測定した。150種類を超える食材を調べることができたことは、順調に進展していると言ってよいのだが、残念ながら探索した食材の中には、長期記憶を誘導できるほど大量にAMKを含む食材を見出すことはできなかった。そこで、メラトニンを多く含む食材からAMKを作る方法の検討やメラトニンの前駆体であるN-アセチルセロトニンを多く含む食材を用いて、メラトニンを人工的に合成するシステムを作り上げた。現在、これらの系を用いて継続して検討を行っている。そのため、進捗状況の区分を(2)にした。
補助事業期間中の実験は、初年度のAMK高含有食材の探索にはじまり、主に以下の5つの項目からなる。実験①AMKの投与タイミングの検討:長期記憶が形成されない条件、すなわち物体を1回だけ見せるという学習の3時間前から3時間後までの様々なタイミングで投与し、長期記憶形成可能な投与時間を決める。実験②有効な投与方法の検討:腹腔内投与だけでなく、経口投与や塗布剤による投与方法による有効濃度や効果の持続時間などを比較検討する。実験③AMKの投与時刻による効果の比較:午前あるいは午後、夜などで学習後にAMKを投与し、最少有効濃度を比較検討する。実験④AMKの長期記憶誘導効果の持続時間:実際に使える濃度や方法における長期記憶の持続時間を調べ、より効果を持続するための投与間隔を決定する。実験⑤AMKのレセプターの同定:レセプターの候補として、脳内のGタンパク質連結型レセプター(GPCR)が考えられるので、複数のGPCRとの結合をβアレスチンの変化を指標に調べることである。以上の5項目の中で、次年度は、①~③の項目を行う予定である。
当初は、マウスを購入して、AMKの投与タイミングの検討(長期記憶が形成されない条件、すなわち物体を1回だけ見せるという学習の3時間前から3時間後までの様々なタイミングでAMKを投与し、長期記憶形成可能な投与時間とその効果を比較検討)をする予定でいたが、AMKを大量に含む食材の探索に時間がかかり、そこまで手が回らなかったのが最大の理由である。次年度は、この投与タイミングを調べる実験以外に、有効な投与方法の検討、さらには、投与時刻による効果の比較実験に費用を当てる予定である。
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