研究課題
高齢者の記憶力の低下は、本人だけでなく社会全体のQOLの低下につながるため、その予防や改善のための機能性食品の開発は喫緊の課題である。メラトニンは、「夜の時刻情報の伝達物質」として生体リズム(睡眠相)を制御する作用が知られているが、この作用以外に、抗酸化物質としての性質が明らかとなり、抗加齢ホルモンとして注目されている。メラトニンは、脳内では主にN-acetyl-N-formyl-5-methoxykynuramine (AFMK)を経てN-acetyl-5-methoxykynuramine (AMK)に代謝される。そこで、AFMKやAMKの学習・記憶に対する効果をマウスを用いて調べたところ、強力な長期記憶誘導効果を持つことを見出した(米国特許取得:Patent No. US 10,266,482)。また、加齢により長期記憶形成能力が低下した老齢マウスにおいて、AMKの効果を確かめたところ、単回投与でも失われた長期記憶力を回復できることを明らかにした。そこで本年度は、これまで報告の無いAMKのレセプターや結合タンパク質の検討、人での展開の基盤を作るために、塗布を含め有効な投与方法の比較検討を行った。また、マウスにおいてAMKによる長期記憶誘導効果の持続時間や最小有効濃度を調べることにより、人への応用の可能性を探ることを目的とした。その結果、若齢マウスに対してたった1回の投与で形成された長期記憶は、少なくとも1週間は保持されることが分かった。また、AMKは腹腔内投与だけでなく、経口投与でも塗布でも長期記憶を誘導する効果が認められ、投与後速やかに血液脳関門を通過し、海馬に到達することも分かった。
2: おおむね順調に進展している
昨年度は、AMKを大量に含む食材の探索を行った。これまで調べてきた食用植物をさらに広げるとともに、ハーブ類や嗜好食品など150種類を超える食材を対象に、LC/MS/MS(当研究室に所有)を用いてメラトニンやAMKを測定した。本年度は、マウスにこれまで行ってきた腹腔内投与だけでなく、塗布や経口投与を行い、有効な投与方法の比較検討を行った。また、AMKによる長期記憶誘導効果の持続時間や最小有効濃度を調べた。しかし、AMKの投与タイミングによる効果の比較検討やAMKのレセプター・結合タンパク質の解析が現在進行中であることから、進捗状況の区分を(2)にした。
補助事業期間中の実験は、初年度のAMK高含有食材の探索にはじまり、昨年度はAMKの投与方法の検討や効果の持続時間の検討を行った。最終年度は、主に以下の3つの項目を行う予定である。実験①AMKの投与タイミングの検討:長期記憶が形成されない条件、すなわち物体を1回だけ見せるという学習の3時間前から3時間後までの様々なタイミングで投与し、いつ投与することにより長期記憶が形成されるか投与時間を決める。実験②AMKの投与時刻による効果の比較:朝、昼、あるいは夜における学習記憶形成能を比較し、また、投与時刻によるAMKの効果に関しても、有効濃度などを比較検討する。実験③AMKのレセプターの同定:レセプターの候補として、脳内のGタンパク質連結型レセプター(GPCR)が考えられるので、複数のGPCRとの結合をβアレスチンの変化を指標に調べる。以上の①~③の項目を行う予定である。
当初は、AMKの投与タイミングの検討(長期記憶が形成されない条件、すなわち物体を1回だけ見せるという学習の3時間前から3時間後までの様々なタイミングでAMKを投与し、長期記憶が形成される投与時間を比較検討)をする実験を予定でいたが、使用するマウスの個体数が多く必要であることから時間がかかり、最終結果まで到らなかったことが最大の理由である。次年度は、この投与タイミングを調べる実験以外に、投与時刻による効果の比較実験、さらに、解析途中であるAMKのレセプターあるいは結合タンパク質の同定に費用を当てる予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 4件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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