研究課題
松果体ホルモンであるメラトニンは、サルファトキシメラトニンとして尿中に排出される代謝経路以外に、主として脳内ではN-acetly-N-formyl-5-methoxykynuramine (AFMK)からN-acetly-5-methoxykynuramine (AMK)に代謝されることが知られている。我々は、このメラトニンの脳内代謝産物であるAMKが、マウスを用いた学習・記憶試験において、学習後のたった1回の投与でも長期記憶を誘導できることを見出し、2021年に生理学分野では世界最高峰の国際科学雑誌であるJournal of Pineal Research ( IF=14.5 )に報告した。本研究の最大の目的は、人への展開の基盤を作るために、AMKの含有量の多い食材を探索するとともに、マウスを使って、有効投与時刻の詳細な検討と投与方法の比較検討、さらに効果の持続時間などの検討を行い、最適条件を絞り込むことにある。本年度はAMKの投与タイミングの検討(長期記憶が形成されない条件、すなわち物体を1回だけ見せるという学習の3時間前から3時間後までの様々なタイミングでAMKを投与し、24時間後の長期記憶が形成されるかどうかを調べることにより、有効な投与時間を検討)をする実験を行った。その結果、学習の1時間前から学習後2時間までの投与で効果が認められたが、最も有効な投与時間は学習直後から学習後15分までであった。また、これまで報告の無いAMKのレセプターや結合タンパク質の検索には、メラトニンレセプターが膜レセプターであることから、まずは膜レセプターを候補として絞り込む実験を複数行ったが、残念ながら現時点では明瞭な結果は得られていない。
2: おおむね順調に進展している
本研究の初年度は、AMKを大量に含む食材の探索を行った。これまで調べてきた食用植物をさらに広げるとともに、ハーブ類や嗜好食品など150種類を超える食材を対象に、LC/MS/MS(当研究室に所有)を用いてメラトニンやAMKを測定した。次年度は、マウスにこれまで行ってきた腹腔内投与だけでなく、塗布や経口投与を行い、有効な投与方法の比較検討を行った。また、AMKによる長期記憶誘導効果の持続時間や最小有効濃度を調べた。昨年度は、学習前後の投与時間を変えることによる効果の比較検討を行い、有効な投与時間を決めることができた。また、AMKのレセプターや結合タンパク質の解析も試みたが、その結果はまだ得られていない。以上の状況から、進捗状況の区分を(2)にした。
補助事業期間中の実験は、初年度のAMK高含有食材の探索にはじまり、次年度のAMKの投与方法の検討や効果の持続時間の検討、3年目は学習の前後におけるAMKの投与タイミングの検討を行った。延長した本年度は、主に以下の3つの項目を行う予定である。実験①AMKの投与時刻による効果の比較:朝、昼、あるいは夜における学習記憶形成能を比較する。投与時刻によるAMKの効果に関しては、最小有効濃度などを比較検討する。実験②AMKの膜レセプターの可能性の検討:レセプターの候補として、脳内のGタンパク質連結型レセプター(GPCR)が考えられるので、培養ヒト神経細胞にAMKを添加して、cAMPの上昇を確認後、複数のGPCRとの結合をβアレスチンの変化を指標に調べる。実験③AMKの結合タンパク質が核内あるいは細胞質内に存在する可能性の検討:AMKを蛍光でラベルして、神経細胞や海馬などから核分画や細胞質分画を抽出し、結合能を調べる。以上の①~③の項目を行う予定である。
メラトニンのレセプターが膜レセプターであることから、当初はAMKも膜レセプターの可能性が高いと考え、色々な方法を用いて検討したが、現段階では良い結果が得られていない。本年度は、膜レセプターである可能性は引き続き検討するが、合わせてAMKの結合タンパク質が核内あるいは細胞質に存在する可能性も含めて、様々な角度から検討を行う。それらの費用に当てる予定である。
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