研究課題
高齢者の記憶力の低下は、本人だけでなく社会全体のQOLの低下につながるため、その予防や改善のための機能性食品の開発は喫緊の課題である。メラトニンは、「夜の時刻情報の伝達物質」として生体リズム(睡眠相)を制御する作用が知られているが、この作用以外に、抗酸化物質としての性質が明らかとなり、現在、抗加齢ホルモンとして注目されている物質である。メラトニンは脳内では、主にN-acetyl-N-formyl-5-methoxykynuramine (AFMK)を経てN-acetyl-5-methoxykynuramine (AMK)に代謝される。そこで、メラトニン、AFMKやAMKの学習・記憶に対する効果をマウスを用いて調べたところ、AMKに強力な長期記憶誘導効果を持つことを見出した(米国特許取得:Patent No. US 10,266,482)。また、加齢により長期記憶形成能力が低下した老齢マウスにおいて、AMKの効果を確かめたところ、単回投与でも失われた長期記憶力を回復できることを明らかにし、2021年には生理学分野では世界でトップレベルの国際科学雑誌であるJournal of Pineal Research ( IF=13.0 )に報告した。本研究の最大の目的は、ヒトへの展開の基盤を作ることにある。そのために、AMKの含有量の多い食材を探索するとともに、マウスを使って、有効投与時刻の詳細な検討と投与方法の比較検討、さらに効果の持続時間などの検討を行い、最適条件を絞り込むことにある。本年度はこれまで報告の無いAMKのレセプターや結合タンパク質の候補を絞り込むことに主として時間を使ったが、残念ながら現時点では明瞭な結果は得られていない。
2: おおむね順調に進展している
初年度は、AMKを大量に含む食材の探索を行った。これまで調べてきた食用植物をさらに広げるとともに、ハーブ類や嗜好食品など150種類を超える食材を対象に、LC/MS/MS(当研究室に所有)を用いて測定を行った。次年度は、マウスにこれまで行ってきた腹腔内投与だけでなく、塗布や経口投与を行い、有効な投与方法の比較検討を行った。また、AMKによる長期記憶誘導効果の持続時間や最小有効濃度を調べた。昨年度は、AMKの投与タイミングの検討を、学習を行う3時間前から3時間後までの様々なタイミングで投与し、翌日の長期記憶が形成される投与時間を決定する実験を行った。本年度は、これまでの研究成果をより確かなものにするための実験を行うとともに、AMKのレセプターの検討を始めたが、その結果はまだ得られていない。以上の状況から、進捗状況の区分を(2)にした。
補助事業期間中の実験は、初年度のAMK高含有食材の探索にはじまり、昨年度はAMKの投与タイミングの検討まで行った。今後は、主に以下の3つの項目を行う予定である。実験①AMKの投与時刻による効果の比較:朝、昼、あるいは夜における学習記憶形成能を比較するとともに、AMKの投与時刻による効果の違いに関して比較検討する。実験②AMKのレセプターの同定:レセプターの候補として最も考えられるのは、脳内のGタンパク質連結型レセプター(GPCR)であるため、これまでの方法とは異なる方法、すなわち培養ヒト神経細胞にAMKを添加して、細胞内のcAMPの上昇を確認する実験を行う。実験③AMKの結合タンパク質が核内あるいは細胞質内に存在する可能性の検討:AMKを蛍光でラベルすることには成功しているので、培養神経細胞や海馬などから核分画や細胞質分画を抽出し、結合を調べる。以上の①~③の項目を行う予定である。
当初は、これまで報告の無いAMKのレセプターの候補として、Gタンパク質連結型レセプターを想定して様々な実験を行ったが、残念ながら明瞭な結果は得られていない。また、結合タンパク質を絞り込むために、AMKを蛍光でラベルし、核分画や細胞質分画との結合を調べたが、現時点において明瞭な結果は得られていない。したがって、次年度は解析途中であるAMKのレセプターあるいは結合タンパク質の同定に費用を当てる予定である。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 3件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 6件)
American Journal of Epidemiology
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