脂質メディエーターと呼ばれる様々な生理活性を有する分子に変換されることが知られている脂肪酸の、カルボキシ基がアミド基に変換された脂肪酸アミド類が、様々な生理現象に関与していることが報告されている。しかしながらその代謝メカニズムや生理活性、疾患との関連など不明な点が多い。そこで、Ⅰ)血中脂肪酸アミド類の濃度変化と疾患との相関関係およびその生理学的意義の解明、Ⅱ)脂肪酸アミド類の生体マーカーとしての有用性、Ⅲ)疾患の予防や治療に焦点を置いた脂肪酸アミド類含有食品の有用性の検討を計画した。 平成30年度は生体内の脂肪酸アミド類の高感度な検出・定量法を確立し、血中において脂肪酸アミドの中でもオレアミドの存在量が一番多いことを見出した。そこで本年度ではマウスモデルを用いて血中オレアミド濃度の変化に着目した解析を行った。 LPSの腹腔内投与によるマウスの炎症モデルを作成し、尾静脈より投与前と投与1時間後から経時的に採血し、血中TNF-αならびにオレアミド濃度を定量した。その結果、LPS投与1時間後から炎症のマーカーである血中TNF-α濃度の上昇が認められた。これに対して血中オレアミド濃度はLPS投与1時間後から有意に低下することを見出した。続いてLPS投与1時間後におけるオレアミドの合成酵素であるpeptidylglycine α-amidating monooxygenase (PAM)とオレアミド分解酵素であるfatty acid amide hydrogenase (FAAH)の肝臓での発現量を比較したところ、対照群とLPS投与群の間にFAAH発現量の差が認められなかったのに対して、PAM発現量はLPS投与群において減少する傾向が認められた。 これらの結果からマウスLPS投与炎症モデルにおいて、PAM発現量の減少が血中オレアミド濃度の減少に関与している可能性が示唆された。
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