糖尿病合併症に共通するイベントとして血管障害があり、その起因物質の1つに終末糖化産物(AGEs)が挙げられる。AGEsによる血管障害は、血管内皮細胞死や炎症反応、血栓形成、粥腫内での血管新生など様々な過程を経て引き起こされるため、関与する細胞は血管内皮細胞、マクロファージ、壁細胞、血小板など多岐にわたる。血管内皮細胞の研究については、酸化ストレスの惹起から始まる障害のメカニズムが解明されつつあるが、その治療薬やAGEs形成阻害剤などは未だ開発されていない。本研究では、重症化予防の観点からAGEsの血管障害において、血管内皮細胞におけるRasGRP2の防御因子としての機能を追求することを目的としている。 樹立したTERT HUVECのRasGRP2安定過剰発現株およびそのMock株にグリセルアルデヒド由来のtoxicなAGEs(TAGE)を添加し、その影響を検討した。細胞生存能解析において、両株ともTAGEによる細胞生存に変化はなかった。一方、血管透過性解析において、RasGRP2安定過剰発現株はTAGEが引き起こす血管透過性亢進をMock株と比較して有意に抑えた。TAGEが引き起こす血管透過性亢進は、各阻害剤実験および局在解析によって、ROS経路および非ROS経路を介してアドへレンスジャンクションを構成するVE-cadherinおよびタイトジャンクションを構成するZO-1 の細胞間への局在の乱れによるものであった。また、RasGRP2安定過剰発現株はRap1経路を介してTAGE-ROS経路を完全に抑えるとともに、R-Ras経路を介してTAGE-非ROS経路の一部を抑えることでVE-cadherin局在の乱れを抑制していた。 これらのことから、RasGRP2は両経路を介してTAGEが引き起こす血管透過性亢進を抑えることによって、血管障害の防御因子として働く可能性が示唆された。
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