研究課題/領域番号 |
18K11041
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
武田 晴治 北海道大学, 保健科学研究院, 准教授 (80374726)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 低比重リポタンパク質 / 硬さ / 原子間力顕微鏡 / 糖化 |
研究実績の概要 |
低比重リポタンパク質(LDL)を金属で酸化させたり、ホスフォリパーゼA2で処理すると柔らかくなることを報告している。本研究では、柔らかいLDLが、マクロファージ泡沫化を惹起するのか?柔らかいLDLが悪玉LDLなのか?という点を明らかにする研究である。昨年度はLDLの硬さに及ぼす因子があるかどうかについて調べた。今年度は抗酸化剤の脂溶性を示す一つの指標であるLogPとLDLの硬さの関係について調べた。その結果、ある範囲のLogPを示す物質をLDLに添加すると硬さが柔らかくなる傾向が観察された。詳細な検討を予定している。 また、昨年度に高濃度のグルコースを用いて糖化したLDLが有意差を持ってLDLの硬さが柔らかくなる傾向があることを報告していた。今年度は生理的条件に近い5mM, 高血糖領域である10mM, 20mMのグルコースを用いて検討した。グルコースと2mMのキレート剤の存在下でLDLを加温した場合、LDLの酸化は共役ジエン法、TBA法では観察されなかったが、硬さの変化は有意差をもって観察された。そこで、グルコース共存下または非存在下で加温したLDLの熱吸収を示唆熱型カロリメトリーで10℃~90℃の範囲で測定した。その結果、LDL内部の構造変化を反映している30℃付近のブロードなピークの領域にわずかな変化が観察された。グルコースによりLDL脂質の温度による挙動が変化していることを示唆する結果が得られた。このことが硬さの変化と関連している可能性がある。また、THP1細胞からマクロファージに分化させた細胞に、同条件で糖化したLDLを添加してマクロファージを泡沫化するかどうかをオイルレッドにより検討したが、泡沫化は観察されなかった。この結果に関してはLDLの濃度など条件を最適化後に再現性の確認をする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、LDLの硬さに変化を与える物質の探索(昨年からの継続)、および、LDLの硬さに変化を与える物質とLDLを加温した後のLDLがマクロファージを泡沫化させるかどうかについて検討する予定であった。脂溶性の高い物質はLDLと相互作用して脂質構造に変化を与えると予想される。しかし、グルコースは親水性物質であり、脂質の構造に変化を与えるという情報がない。そこで、グルコースによる硬さの変化の原因を調べることが今後の研究に重要であること考え、グルコースによるLDLの硬さ変化の原因を検討した。動的光散乱法による二次的粒子径、ゼータ電位、熱量計によるLDLの物性の評価を実施した。その結果、脂質内部の構造変化が硬さの変化に影響を与えている可能性が示唆された。これはホスフォリパーゼA2処理で硬さが変化した原因と矛盾しない結果であった。硬さの変化を与える物質はLDLの脂質の構造に影響を与えるものである可能性が示唆され、今後の物質のスクリーニングに役立つと考えられる。 THP1セルからマクロファージを分化させるところまでは定法により確認できた。しかし、LDLの添加によるマクロファージ泡沫化を検討するための条件が最適化されていないが、LDLの濃度の増加により解決できると想定していることより、やや遅れているの区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
グルコース存在下で加温したLDL、抗酸化剤存在下で加温したLDLがマクロファージの泡沫化について検討する。しかし、環境と社会情勢の変化により検体採取と細胞培養の開始までに時間を要すると予想される。そこで、以下のことを並行して実施する。変性LDLがLOX1レセプターに吸着することで炎症のトリガーになることが知られていることより、LOX1レセプターに認識されるLDLの硬さを検討する。Hisタグ導入したLOX-1レセプターおよびLDLレセプターを研磨ガラス基板に固定化して、それぞれに固定化されたLDLの硬さ、サイズなどを評価する。LOX-1レセプターに認識されるLDLの物性の特徴を検討する。これによりLDLの硬さと変性LDLによるLOX-1を介したLDLの炎症の関連について評価できると考えている。LDLに関しては従来どおり採血後に分画する方法と市販のLDLを併用する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
北海道大学から北海道科学大学に転職したため、2月中頃から引っ越しなどにより研究(実験)を一時中段した関係で消耗品が29381円分未使用となった。この分については2020年度に使用する予定である。
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