我々は発酵性を持つ難消化性糖質のうちビートファイバーのみが大腸において粘液の主成分であるムチンの合成を促進することを発見した。その他の発酵性を持つ難消化性糖質は大腸内pHを下げることでムチン分解酵素の活性を抑制し、見かけ上のムチン量を増加させていた。腸内細菌の適応によってpHは元の状態に戻るため、通常の難消化性糖質によるムチン量上昇は一過性である。恒常的なムチン量の増加には合成の促進が必須である。 本研究の目的は、「ビートファイバーを利用する腸内細菌から分泌される物質が大腸の粘液合成を促進する」という仮説を証明し、大腸の防御機能増強を意図してこの物質を積極的に制御するような食品を創出することである。 この目的を達成するために、本年度は盲腸内容物画分とヒト結腸上皮細胞株HCoEpiCを共培養し、ムチン合成酵素(Muc2、Muc3、Muc5Ac)発現量を上昇させる物質の特定を行った。しかしながら、いずれの盲腸内容物画分もHCoEpiCのMuc2、Muc3、およびMuc5Ac発現量を増加させなかった。一方、並行して行った動物実験では6週齢のSD系雄ラット12匹を対照食群および5%ビートファイバー食群に分け14日間飼育した。試験飼育最終日に体重測定後、麻酔下で解剖し、盲腸を摘出した。それぞれ次世代シーケンサによって腸内細菌叢解析を行った。その結果、5%ビートファイバー食群のRuminococcus属、Oscillospira属、Lactobacillus属、Bacteroides属が対照食群にくらべ有意に増加した。いずれかの菌から分泌される物質にムチン合成を促進させる可能性がある。
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