研究課題/領域番号 |
18K11051
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
高石 鉄雄 名古屋市立大学, 大学院システム自然科学研究科, 教授 (50216610)
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研究分担者 |
林 達也 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (00314211)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 運動習慣 / 要介護予防 / 生活習慣病 / 高齢者 |
研究実績の概要 |
わが国では、高齢化の進展に伴って医療や介護に要する費用が増加の一途をたどっている。生活習慣病の予防や生涯にわたる身体的自立に対し、日頃からの運動実施が重要なカギとなることは、今や周知の事実である。ただし、単なる平地歩行ではその効果も限定的であることから、普及が簡単で、かつ一定強度以上の負荷を伴う運動を社会に浸透させることは意義あることと考える。 階段昇降運動は、特別な道具が不要かつ天候に左右されないだけでなく、立体移動であるため歩行に比べてより高いレベルの有酸素作業となり、高いレベルの脚筋力発揮を要する。すなわち本研究の目的は、比較的短い階段を使って日常的に階段昇降運動を行うことが、多方面における健康増進効果をもつかを明らかにすることである. 具体的方法として、本研究では、60-70歳代の一般中高齢者合計46名(70.5±5.4歳)を対象に75日間の階段昇降運動による運動介入を行い、①血管系障害につながるとされる耐糖能および血清脂質値の維持・改善につながるか、および、② 身体的自立に関わる健康指標を維持・改善させるかについて調査した。 ①に関わる指標として、血糖値、HbA1c値、インスリン値および連続血糖値モニターによる血糖値変動パターンと、血清脂質値(中性脂肪、HDL/LDL-コレステロール)、さらに肝機能(γ-GOT/GPT)などの血液検査値、②に関わる指標として、全身持久性(12分間歩行)、脚伸展筋パワー(椅子からの立ち上がりテスト)、敏捷性(立位前後反復)、さらに骨代謝に関わる血液検査値(オステオカルシン)などを測定し、介入前後でその数値に変化があるかを調査した。 その結果、①の指標のうち、HbA1c値、中性脂肪値、HDL-コレステロール値、および連続血糖モニターによる1日のAUC値に、また②の指標のうち敏捷性について機能の改善・向上を示す有意な変化が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画の段階で被験者群を絞っており、被験者が所属する某地方公共団体の積極的な支援も得られたことで、介入前後の測定場所確保も順調で、各種測定において被験者に負担をかけなくて済んだ。
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今後の研究の推進方策 |
測定自体は順調であったが、得られた結果から新たに確かめるべき課題が浮上した。 本研究では被験者の方々が階段昇降運動を実施する具体的なタイミングについては指導をしなかった。しかしながら、自身の過去の研究結果から、食事開始から60-75分後に血糖値の上昇がピーク値に達することが分かっている。従って、今回の介入によって血糖値変動のAUC(エリアアンダーカーブ)が望ましい方向の有意な変化が認められたが、各被験者に対し最良のタイミングで階段昇降運動を行うよう指導すれば、第1回目の測定以上に血糖値の状況がよくなり、HbA1c値なども更に下がることが予想される。各被験者の血糖値変動パターンは把握しているため、今後はこれに被験者から得た食事開始時刻のデータを重ね、運動開始の最適なタイミングを各被験者に知らせることで、今回以上の血糖値変動(AUC値)が得られるかを確かめる。 また、今回の研究では、運動介入を行わない対照群についても募集したが、予想に反し、運動群の4分の1程度の人数しか協力者を集めることが出来なかった。よって、今年度は対照群を増やすことも進める。 階段昇降時の下りにおいては着地衝撃を伴うため大腿骨頸部などの骨塩量増加が見込める。本研究では、骨代謝マーカーであるオステオカルシン値の増加を予測したが、同値については逆に減少傾向を示した。この理由については不明であるが、秋から冬にかけての介入であったため、日照時間が減少する時期であった。よって、オステオカルシン値の季節変動についても、日照時間がのブル時期にどのような変化を示すかを調査する必要がある。 ただしこれについては、資金との関係があるため、測定値に含めない可能性がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していたよりも対照群の確保が出来ず、そちらでの血液検査費用や連続血糖モニターの必要数が少なくなった。また、所属部局における本務の都合が研究分担者と合わず、研究打ち合わせやデータ解析のための旅費を使用できなかったことも予算の持越しが生じた理由である。
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