研究課題/領域番号 |
18K11063
|
研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
川上 隆茂 徳島文理大学, 薬学部, 講師 (40441589)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | ビザンチン / 脂肪細胞 / アディポカイン / PPARγ |
研究実績の概要 |
【目的】本学の西沢らによってトレハロース誘導体から創生された化合物「ビザンチン」は、抗炎症作用やマクロファージ活性化作用を有する。一方、脂肪細胞は種々のサイトカイン分泌細胞でもあり、その肥大化に伴いTNF-α等の炎症性サイトカイン分泌増加や善玉アディポカイン分泌が低下することで脂肪肝発症に寄与する。本研究では、「ビザンチン」およびその水溶性を高めた「ビザンチン誘導体」の脂肪細胞分化能および脂肪機能関連遺伝子発現に与える変動を解析した。 【方法】3T3-L1細胞を成熟脂肪細胞へ分化誘導する際に、ビザンチンまたはビザンチン誘導体(0~50 μM)を分化誘導開始時から8日間曝露し、MTTアッセイを用いて細胞毒性を、Nile Red染色を用いて細胞内脂肪蓄積量を評価した。同様の処理細胞から脂肪細胞機能関連遺伝子(PPARγ、C/EBPα、アディポネクチン、レプチン)のmRNA発現量をリアルタイムPCR法を用いて解析した。また、ウエスタンブロット法を用いてAkt発現量を検討した。 【結果・考察】(1)細胞毒性:両化合物は3T3-L1細胞において細胞毒性を示さなかった。(2)脂肪滴蓄積量:ビザンチンは3T3-L1脂肪細胞において用量依存的に脂肪蓄積量を減少させた。一方、ビザンチン誘導体は、用量依存的に脂肪量を増加させた。(3)遺伝子発現量:ビザンチン誘導体は、脂肪細胞分化関連遺伝子(PPARγ、C/EBPα)および善玉アディポカイン(アディポネクチン、レプチン)mRNA発現量を増加させた。また、ビザンチン誘導体処理はAktのリン酸化を促進した。 以上、ビザンチン誘導体の脂肪細胞分化促進作用は、Aktのリン酸化を介したPPARγおよびC/EBPαの発現増加に起因している可能性が示唆された。さらに、善玉アディポサイトカイン分泌促進を介して生体における脂肪肝を改善しうる可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、「ビザンチン」および「ビザンチン誘導体」の脂肪細胞に対するサイトカイン分泌修飾の可能性にフォーカスし、各化合物処理が脂肪細胞分化能に与える影響およびアディポサイトカインなど脂肪細胞機能関連遺伝子発現に与える影響を解析した。本研究から、脂肪肝発症に深く関与する脂肪組織に対してビザンチンは脂肪細胞分化を抑制し、ビザンチン誘導体は善玉アディポカインmRNA発現増加を伴う脂肪細胞分化を促進することを新たに見出した。これは研究計画(3)の臨床応用に向けた新規化合物の検討:新規化合物「ビザンチン」の脂肪肝に対する予防・治療戦略の検討の一部であり、「ビザンチン」およびその誘導体が生体に対して低毒性であること、そして脂肪細胞の機能改善作用を有する可能性が示唆された。以上の結果から、当初の目的を達成しており、おおむね順調に進展していると判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後、肝細胞および脂肪細胞を用いて「ビザンチン」および「ビザンチン誘導体」がターゲットとするより詳細な遺伝子の特定を行う予定である。 また、当初の計画通り脂肪肝モデルとなる妊娠マウスに「ビザンチン」を経口投与し、血中ビザンチンの検出、炎症生サイトカイン、血清パラメータ、組織学的検索(HE染色)や遺伝子発現解析(線維化・小胞体ストレスマーカーなど)をおこない脂肪肝治療の新薬候補の可能性を検討する。さらに、メタロチオネイン欠損マウス(高脂肪食による脂肪肝モデル)を用いて「ビザンチン」および「ビザンチン誘導体」の肥満および脂肪肝に対する影響解析を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)次年度使用が生じた理由として、研究計画時より物品を安価に購入できたためである。また、新型コロナウイルス禍により、実験試薬の流通に混乱が生じたことも理由の一つである。さらに、研究成果発表の予定がなくなったために次年度使用額が生じた。 (使用計画)次年度は、引き続き「ビザンチン」の脂肪肝に対する治療薬の臨床応用の研究(in vitroおよびin vivo)を継続して行う。次年度では、動物実験(動物飼育代を含む)に20万円、細胞培養実験に25万円、遺伝子発現量解析および脂肪肝マーカに20万円、学会発表旅費に10万円、統計解析ソフト関連に20万円を計上する。
|