【目的】我々は、妊娠マウスが食餌誘発性の脂肪肝に対して極めて感受性が高いことを見出しており、このことは脂肪肝発症メカニズム解明や脂肪肝治療薬の評価において広く応用されることが期待できる。他方、本学でトレハロース誘導体から創生された化合物「ビザンチン」は、細胞レベルで脂肪肝の発症・伸展に関与する炎症性サイトカイン分泌を抑制することを報告している。そこで、本研究は本脂肪肝モデル動物を用いて、個体レベルでのビザンチンの脂肪肝治療薬としての有用性について検討した。 【方法】ICR系の妊娠マウス(妊娠1日目)に高脂肪食条件下で、1日2回、10 mg/kgの用量で対照溶媒およびビザンチンを17日間、連続経口投与した。妊娠17日目に解剖を行い胎仔・胎盤および母胎肝臓を摘出し、重量を測定した。血清中のALT、AST値は各測定キットを用い、さらに血清中のビザンチン量をHPLC分析法により検討した。肝臓はHE染色による組織学的検索を行った。一部の肝臓は、リン酸化AMPK発現量をウェスタンブロット法により測定した。 【結果・考察】ビザンチン処理群は対照溶媒群と比較して、①母胎体重、胎仔および胎盤重量に有意な差は認められなかった。②高脂肪食摂取によって増加したAST、ALT値の減少を伴う肝臓に蓄積した脂肪滴を減少させた。③ビザンチン経口投与後の血清中においてビザンチンが確認されたことから、消化管から吸収された可能性が示唆された。③高脂肪食摂取によって低下したリン酸化AMPKの発現量を増加させた。以上、ビザンチンの経口投与は、脂肪肝の寛解作用を有することが明らかとなり、そのメカニズムの一部に細胞内のエネルギー代謝の調節に重要な役割を担うAMPKを介している可能性が示唆された。
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