研究課題/領域番号 |
18K11066
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
藤井 元 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 主任研究員 (90321877)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 栄養関連がん / 高栄養摂取 / 非自己-遺伝類似的影響 / エピジェネティック変化 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
Minマウスはヒトにおける大腸がんでの高リスク群である家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis:FAP)患者と同じ遺伝子変異を有した疾患対応モデル動物で、12週程度から腸内に多くのポリープを形成し、消化管腫瘍を発症する事が知られている。このMinマウス母体で前妊娠期以降、および妊娠確認期以降に、栄養成分比率の異なる高栄養飼料を与える実験を行った。具体的には、対照群では通期通常飼料にて飼育を行う一方、実験群ではメスMinマウスのケージを分け、1)メーティングさせる1週程度前(前妊娠期)から、2)メーティング後の妊娠を確認出来た時期(妊娠期)以降に、高栄養飼料(高脂肪飼料、または高糖分飼料)を与えた。 実験群・対照群の双方において、出生後は授乳期の親個体も授乳期以降の胎児個体も通常飼料とし、高栄養摂取の影響を純粋に親世代の前妊娠期及び妊娠確認期以降のみとした。 十分なポリープ形成が見込まれる生後13週以降の時期に腸管ポリープの数と大きさを測定し、統計解析によって発生率の有意な差異が生じているかについて検討した。 全てのマウスを屠殺/解剖し、腸内に出来たポリープの個数と大きさを個体別/部位別に測定した結果、前妊娠期以降、および妊娠確認期以降に高栄養飼料を与えた個体では、有意、もしくは傾向として、腸管に発生するポリープ数が多い、という計画当初の予想通りの結果が得られた。 このことにより、今後の研究展開に関する基礎的なエビデンスを得られたものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
成分の異なる高栄養餌の入手などに手間取ったものの、最も基礎となるべきデータ:前妊娠期以降、および妊娠確認期以降に母個体に高栄養飼料を与えた場合、仔マウスに生じる腸管ポリープの数と大きさの点で、対照群に比較して実験群には有意な差異が生じうるのか?、に関し、統計的に肯定的な結果が得られたことから、当初の計画に準じて今後の研究を進めていく所存である。
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今後の研究の推進方策 |
当研究計画は、基本的に動物実験を先行して行い、その結果に関する分子解析やマイクロフローラ解析を事後に行ないながら、メカニズム探索に繋がるような次の動物実験を行っていく、という追尾循環型方式の研究となる。 エピジェネティックな変動を解析すべく、解剖時に別採取した臓器試料からDNAを抽出し、まずは代表的なエピゲノム変動であるDNAメチル化に差異があるかどうか、の解析を行う(子供世代の個体から採取する臓器としては腸正常部、ポリープ部、肝臓、などを利用する予定)。 解析では、まず最初に網羅的な指標と成るDNA全体のメチル化率の測定から開始し、その後高栄養摂取での変動が疑われる個別遺伝子レベルのDNAメチル化解析を行う。さらにクロマチン関連エピジェネティクスにおける標的であるヒストン修飾変動に関しては、DNAメチル化レベルでの解析結果も踏まえ、必要に応じて組織切片に対する修飾タイプ特異的なヒストン抗体などを用いた組織別の免疫組織化学的解析なども利用して解析を行う。 ポリープ数の差異に有意差が認められ、さらにエピゲノムレベルの変動が確認できた場合、メチルDNA特異的アレイや修飾型特異的ヒストン抗体を用いたChIP-Seq法(クロマチン免疫沈降からのDNAシークエンス)やChIP-on-chip(クロマチン免疫沈降からのDNAチップ)解析を行うことで、DNAやヒストンにおけるエピゲノム変動部位を詳細に明らかにしていく。この変動部位のプロファイルに関しては別途行う発現解析結果とも相関させて、統合的に考察を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に予定していた高栄養動物餌の入荷が遅れ、入手に時間がかかった。その結果、昨年度に予定していた比較的費用のかかる実験の一部が2019年度に繰越となった。(ただし、実験計画上の骨子となる中心かつ必要なデータを入手でき、さらに2019年度以降に必要な生体サンプルなども得ることができたので、本質的には大きな遅れはなく、着実に進展していると考えている) 2019年度は研究計画に挙げた各ステップの実験を順次進めていきたいと考えている。
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