研究実績の概要 |
骨格筋は可塑性(肥大・萎縮)と共に, 筋線維タイプ(遅筋・速筋)および代謝変換能(酸化系・解糖系)を有する. 各種運動や疾患等に伴い筋肥大・萎縮が惹き起こされる事がよく知られるが, その過程で様々な筋線維タイプ変化も同時に生じる. しかし, この詳細なメカニズムと生理的意義は不明な点が多い. これまでに, 全ての筋線維タイプを蛍光蛋白で識別できるマウスを作製し, そのマウス由来筋管細胞を用いて筋線維タイプ変換誘導因子を探索する為に, 生体内因子・薬剤を用いて網羅的スクリーニングを行った. その結果, 遅筋線維(Type I)或は速筋線維(Type IIB)を誘導する複数の新規因子を同定する事ができた. その因子の1つであるCCL19は, 培養条件下で速筋線維から遅筋線維に誘導し, 且つ代謝機能を低下させる事を見出している. 本研究では, ①CCL19が加齢性筋萎縮の原因の1つであるかを解明する, ②CCL19を介した筋線維タイプの変換シグナル経路を解明する, さらに③加齢性筋萎縮の予防・治療法を開発する事を目的としている. 平成30年度は, CCL19が加齢性筋萎縮と関連するか否かを確かめる為, 各月齢マウスの血中CCL19濃度を測定した結果, 血中CCL19濃度は若齢に比べ老齢マウスで顕著に上昇する事を見出した.一方, 加齢に伴うCCL19濃度上昇の原因を明らかにする為に, 各組織・細胞におけるCCL19 mRNA発現量を調べた結果, 血管内皮細胞および筋衛星細胞において発現が特に高い事が分かった. さらに加齢に伴う発現量の変化を調べた結果, 加齢に伴い骨格筋では変化しないが, 血管内皮細胞で増加する事を見出し, 加齢に伴う血中CCL19濃度の上昇は血管内皮細胞に起因している可能性を考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成30年度は, In vitro実験系で得られた筋線維タイプ変換を誘導する生体内因子であるCCL19が加齢性筋萎縮と関連するか否かを確かめる事を目標とし, ①血中CCL19濃度が加齢に伴い変化するか否かを確認する事, ②その濃度が筋肥大・萎縮あるいは, 筋重量の指標となり得るか否かを確認する事, さらに③CCL19がどこに由来するかを明らかにする事を目標としていた. 各月齢のマウスから血清を採取し, ELISA法を用いて血中CCL19濃度を測定した結果, 若齢(2~4ヶ月齢)に比べ成人(12ヶ月齢)および老齢マウス(20~24ヶ月齢)で顕著に上昇する事を見出した. また血中CCL19濃度と筋重量との関連を調べた結果, 血中CCL19濃度は筋重量(腓腹筋)との間に相関関係がある事が明らかとなった. 一方, 各組織・細胞におけるCCL19 mRNA発現量を調べた結果, 血管内皮細胞および筋衛星細胞において発現が特に高く, さらに加齢に伴い骨格筋ではCCL19発現量は変化しないが, 血管内皮細胞で増加する事を見出した. またヒト由来血管内皮細胞を用いて継代培養を繰り返し老化させた結果, CCL19発現量が上昇する事が分かった. すなわち加齢に伴う血中CCL19濃度の上昇は, 主に血管内皮細胞に起因している可能性を考えられた. 更に現在では, 血管由来CCL19発現上昇が筋線維タイプ変換誘導および加齢性筋萎縮を惹き起こすか否かを確認する為に遺伝子改変マウスの作製を行っており, 随時解析を行う予定である. 以上の通り, 研究計画はおおむね予定通り進行している.
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた結果をふまえて, ①筋線維タイプ変換誘導因子であるCCL19が, 加齢性筋萎縮の原因であるか否かをIn vivoで確認する. CCL19をマウスに継続投与する, 或はCCL19を過剰発現させる遺伝子改変マウスを作製する事でCCL19の骨格筋への影響を明らかにする. 遺伝子改変マウスから採取した骨格筋を用いて, 筋線維タイプの分布を免疫染色法・遺伝子発現などで評価し, 筋線維タイプ変換を制御するか否かを確認する. 加えて, 筋重量を測定し, CCL19と加齢性筋萎縮との関連を評価する. 同時に②CCL19による筋線維タイプ変換シグナル経路の同定を目指す. 筋線維タイプ変換を誘導する既知遺伝子(Sirt-1等) が筋特異的に欠損したマウス, 或はCCL19の下流因子を同定し作製した遺伝子改変マウスを用いてIn vitroおよびIn vivoで解析を行う.
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