研究課題
本研究では市販のサケ鼻軟骨由来プロテオグリカン標品(サンスター社のヒアルコPG)からプロテオグリカン画分を分画し、これをマウスに経口投与した後、小腸に到達したときのプロテオグリカンの構造の変化について検討した。この標品にはプロテオグリカンの他にコラーゲン、ヒアルロン酸等の不純物が含まれていることから,初めにこれらを可能な限り除去するためにDEAE-Sephacelによるイオン交換クロマトグラフィ及びSepharose CL-2Bによるゲル濾過クロマトグラフィを行った。その結果,カルバゾール硫酸法によるウロン酸量を指標として分子量の異なる3つのプロテオグリカン画分(分子量の大きいものからPG1,PG2,およびPG3)を得た。このうちPG2はプロテオグリカンそのものであり,量的にもっとも多く回収された。これに対してPG1は,PG2と除去しきれなかったヒアルロン酸とが凝集体を作ったもの,また分子量の小さいPG3はPG2の部分分解物と考えられ,いずれもPG2に比較し回収量は少なかった。そこで以後の実験にはPG2画分を用いた。このPG2画分を10 mg/mlの水溶液としたものをマウスに経口投与した後、小腸内容物を回収した。これを7 M尿素/50 mMトリス塩酸緩衝液(pH 7.5,プロテアーゼ阻害剤を含む)により抽出し,可溶画分を得た。この可溶画分に含まれるプロテオグリカン消化産物をDEAE-Sephacelにより回収し,Sepharose CL-4Bによるゲル濾過で分子量変化を検討した。その結果、小腸におけるプロテオグリカンは低分子化しており、そのサイズはアクチナーゼで消化したプロテオグリカンと等しいことから,タンパク質部分がほぼ完全に消化されたことが示唆された。また,プロテオグリカンの糖鎖長や硫酸基の結合位置には変化が認められないことも示唆されたが,さらなる検討が必要である。
2: おおむね順調に進展している
今年度は市販プロテオグリカン標品からプロテオグリカンをマウスに投与するに十分な量を精製することを目標の第一にあげた。次に,これを実際にマウスに投与し,小腸内容物からプロテオグリカン消化産物を回収して,投与前のプロテオグリカンと構造を比較することにより,経口投与されたプロテオグリカンの消化の実態を明らかにすることが二つ目の目標であった。まず,プロテオグリカン標品をそれぞれ大型カラムを用いたイオン交換クロマトおよびゲルろ過クロマトをそれぞれ4回ずつ行い,市販プロテオグリカン標品に含まれているコラーゲンなどの不純物を除去すると同時に,以降の実験に十分な量のプロテオグリカンを調製した。これをマウスに投与して1時間後にほぼ小腸に達していることを,胃,小腸,盲腸および大腸の内容物の電気泳動による分析で確認した。その後,マウスに投与後の小腸内容物の回収を繰り返し,その可溶画分からイオン交換樹脂により酸性物質を回収し分析した結果,小腸におけるプロテオグリカンはタンパク質部分がほぼ完全に消化されたが,その糖鎖長や糖鎖の硫酸基の結合位置には変化がないことが示唆された。以上より,今年度計画はほど順調に進展したと判断した。
プロテオグリカンを経口摂取してもプロテオグリカンの糖鎖(コンドロイチン硫酸)の構造が変わらないとすれば,コンドロイチン硫酸そのものが腸管から吸収される可能性は極めて低いものと推測される。プロテオグリカンの経口投与が生体に影響を与えるとすれば,コンドロイチンが腸管に直接作用し何らかの生物活性を発現している可能性がある。そこで今後の研究は,プロテオグリカン消化産物の構造解析と並行して,コンドロイチン硫酸の腸管上皮細胞への直接的な影響を,培養細胞を用いて検討する計画である。
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