研究課題
昨年度は市販のサケ鼻軟骨プロテオグリカン標品から,各種クロマトグラフィにより混在するコラーゲンやヒアルロン酸などの軟骨成分を極力除去したプロテオグリカンを必要量調製した。これをマウスに経口投与し小腸内容物を調べたところ,投与されたプロテオグリカンは低分子化しており,そのサイズはアクチナーゼで消化したプロテオグリカンと等しいことから,タンパク質部分がほぼ完全に消化されたことが,また,プロテオグリカンの糖鎖長や硫酸基には変化が認められないことも示唆された。今年度はこれを確認するため,再度マウスへの経口投与実験を行った。まず3時間絶食させたマウス(♂,12~15週齢)に1%プロテオグリカン水溶液0.2 mlを投与したのち,1時間後に安楽死させた。直ちに小腸内容物を回収し,昨年度と同様の方法で分析した。その結果,小腸内容物中のプロテオグリカン消化産物のサイズは投与前のプロテオグリカンのアクチナーゼ消化産物とほぼ等しく,糖鎖の硫酸基も変化がないことが確認されたことから,昨年度の結果を裏付けることとなった。このことは,経口投与されたプロテオグリカンの糖鎖部分であるコンドロイチン硫酸そのものが腸管から吸収される可能性が極めて低いことを推測させる結果であった。そこで,培養細胞を用いてコンドロイチン硫酸の腸管上皮細胞への直接作用について検討するため,ヒト結腸癌細胞株Caco-2のアルカリホスファターゼ発現を指標とした培養小腸モデルと大腸モデルを確立した。これに小腸内容物由来コンドロイチン硫酸を添加する実験を試みたが,このコンドロイチン硫酸が十分量得られなかったため,市販コンドロイチン硫酸を用いる実験を検討している。
2: おおむね順調に進展している
昨年度,精製したプロテオグリカンをマウスに経口投与し,その小腸内容物からプロテオグリカン消化産物を回収して,投与前のプロテオグリカンと構造を比較したところ,小腸におけるプロテオグリカンはタンパク質部分がほぼ完全に消化されていたが,その糖鎖長や糖鎖の硫酸基の結合位置には変化がないことが示唆された。そこで今年度はこれを再確認することと,培養細胞系でコンドロイチン硫酸糖鎖の腸管上皮細胞への作用を調べることを目的とした。まず,昨年からさらにマウスを増やして同様の実験を繰り返した結果,マウスに経口投与されたプロテオグリカンの小腸における消化産物は,コアタンパク質はほぼ分解されていたが,プロテオグリカンの糖鎖部分であるコンドロイチン硫酸の硫酸基は脱落しておらず,糖鎖長も全く分解されていないことが確認された。この結果は,経口投与されたプロテオグリカンの糖鎖部分であるコンドロイチン硫酸そのものが小腸から吸収される可能性は極めて低いこと,また,これが生体に影響を与えるとすれば腸管上皮細胞に直接作用している可能性が推測された。そこで次に,ヒト結腸癌細胞株Caco-2を用いた実験を行った。培養日数に応じてこの細胞が小腸上皮様細胞に分化することを利用して,アルカリホスファターゼ発現を指標とした培養小腸モデルと大腸モデルを確立した。これに小腸内容物由来コンドロイチン硫酸を添加する実験を試みたが,このコンドロイチン硫酸量が十分ではなく,いくつかの抗菌ペプチドの遺伝子発現が検討されたが,現在のところコンドロイチン硫酸による有意な発現変化は観察されていない。
小腸内容物から得られるプロテオグリカン消化産物であるコンドロイチン硫酸を培養細胞に添加するための必要量を調製することは困難であると判断した。そこで,問題解決のために,その構造がほぼ解析されている市販コンドロイチン硫酸を用いることや,市販コンドロイチン硫酸を化学的に脱硫酸化して独自に得られたコンドロイチンを用いた実験を行うことで,小腸および大腸モデルにおけるコンドロイチン硫酸の直接作用を検討する。また,最終年度であるため研究成果を論文および学会発表予定である。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Carbohydrate Research
巻: 483 ページ: 107754
10.1016/j.carres.2019.107754
Disaster Medicine and Public Health Preparedness
巻: Sep 30 ページ: 1-2
10.1017/dmp.2019.88