研究課題
ヒトの遺伝性疾患のうち約3割は、mRNA上に異所性の翻訳停止コドン(PTC)が生じるナンセンス型である。ナンセンス型mRNAは細胞内のmRNA品質管理機構(NMD)によって分解されるため、必要なタンパク質が作られず病気が発症する。リードスルー治療とは、mRNA上でリボソームがPTCを読み飛ばし翻訳を続行させる技術で、ナンセンス型mRNAから全長タンパク質を合成できる。本研究では、Duchenne型筋ジストロフィーモデルであるmdxマウス(ジストロフィン遺伝子にナンセンス変異をもつ)において、リードスルー治療とそれに対する食生活の影響を解析した。mdxマウスを一般飼料あるいは高脂肪食で飼育し、ゲンタマイシンによるリードスルー治療を行った。対照として同系統の健常マウス(ScN)を用いた。昨年度までの研究において、ScNマウスに比べて、mdxマウス(一般飼料)の筋組織ではジストロフィンmRNA発現量が有意に低く、ジストロフィンタンパク質は検出されなかった。mdxマウスにおいて、ゲンタマイシンあるいは高脂肪食の単独投与では、ジストロフィンの発現レベルに有意な変化は見られなかったが、ゲンタマイシンと高脂肪食の併用投与でジストロフィンmRNAレベルは増加し、ジストロフィンタンパク質が検出された。今年度の研究では、リードスルー治療効率増加の分子機構を検討するため、NMD活性制御に関わりの深い小胞体ストレス応答を調べた。ゲンタマイシンと高脂肪食の併用投与では、XBP1のわずかな増加が確認されたが、小胞体ストレス応答全体が大きく増加したといえる結果は得られなかった。このように、本研究では、ゲンタマイシンによるリードスルー治療に食事内容の変化を併用することで、リードスルー治療効率が変化する可能性を明らかにした。
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