研究実績の概要 |
キサントフィル蓄積の重要な因子の一つとして、β末端基及びε末端基に結合する水酸基の酸化反応が考えられる。マウス肝臓ではβ末端基の方が優先して酸化されるがε末端基の酸化活性ももっている。β末端の酸化は不安定な中間体をへて非特異的な分解反応を起こすことが示唆されキサントフィル分解に関与している可能性がある。ヒトではこれらの酸化反応のどちらが優勢であるかは不明であるが、ルテインのε末端基とβ末端基の酸化代謝産物を分析することによって両代謝反応の寄与度を推定できる。ルテインのε末端基が酸化されると(3R,6'R)-3-Hydroxy-β,ε-caroten-3'-one)が生成し、ゼアキサンチンのβ末端基の酸化によって(3R,6'RS)-3-Hydroxy-β,ε-caroten-3'-one)が生成する。そのため、立体異性体を分別定量することによってルテイン由来のε末端基酸化産物を分析しなければならない。 そこで、3-Hydroxy-β,ε-caroten-3'-oneについて(3R,6'R)と(3R,6'S)のジアステレオーマーをHPLCで分離・分析する条件について検討した。キラルカラム(CHIRALPAK AD-H)を用いた順相HPLCにより2つのピークに完全に分離することができた。分取したこれらのピークについて水素化ホウ素ナトリウムを用いた還元及びマウス肝臓ホモジネートによる酸化を行い生成物を解析することによって、分離された2つのピークの立体配置を決定した。ルテインのε末端基の酸化によって生成する(3R,6'R)-3-Hydroxy-β,ε-caroten-3'-oneをゼアキサンチンのβ末端基の酸化生成物から分別定量する条件を確立した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.キサントフィルの非対称開裂代謝の解析については、マウス肝臓ミトコンドリア画分を用いた開裂活性の測定法を検討し、反応特性を解析する。カロテノイドの非対称開裂産物の標準品を調製するため,ルテインやリコペンに非対称開裂酵素を反応させ,非対称開裂産物を分離・調製する。また,生体試料中の開裂産物を分析するための高感度HPLC分析法を開発し,ルテインを投与したマウスの組織及び健常人血漿の非対称開裂産物を解析し,哺乳動物において非対称開裂代謝反応が起きているか検証する。 2.キサントフィルの末端基の酸化的代謝反応の解析については、ルテインの代謝産物である3'-hydroxy-ε,ε-caroten-3-oneと3-hydroxy-β,ε-caroten-3'-oneの立体異性体を同時分析できるHPLC分析条件を検討し、マウス肝臓の酸化的代謝反応産物及びヒト血漿に含まれるキサントフィル酸化産物について立体異性体を解析し,キサントフィル末端基の各水酸基に対する酸化代謝活性を明らかにする。 3.上記2の課題が順調に進展すれば、さらにキサントフィル蓄積と代謝能の関係について検討する。キサントフィルの開裂代謝及び末端基の酸化的代謝はヒト組織中のキサントフィル蓄積量に影響し,各個体の代謝能の相違が蓄積の個体差をもたらしている可能性が考えられる。ヒト血漿中のキサントフィルに対する代謝産物の量比を代謝能の指標とし、代謝能とキサントフィル蓄積量との相関性やそれらの個体差を解析する。
|