研究課題/領域番号 |
18K11083
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研究機関 | 昭和薬科大学 |
研究代表者 |
渡辺 泰男 昭和薬科大学, 薬学部, 教授 (10273228)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 血清飢餓 / 活性イオウ / シスタチオニンγ-リアーゼ(CSE) / MAPキナーゼ |
研究実績の概要 |
カロリー制限による寿命延長に重要とされるCBS、CSEの発現誘導の意義を培養細胞系模倣モデルを用いて解析した。培養液より血清を除去し、HEK293細胞内CSE発現誘導を確認後、血清を再添加することでCSE発現誘導を停止させる系を確立した。なお、CBSの発現量に変化はなかった。この系を用いて、 ①血清飢餓によるCSE発現誘導時の細胞内シグナルの解析:CSE阻害薬のpropargylglycine (PAG)やRNA干渉法によるCSE発現抑制によって活性イオウの産生ならびにMAPキナーゼのERK活性化が阻害された。しかし、ERKの上流のERKキナーゼ阻害剤(U0126)はERK活性化を阻害したがCSE発現誘導は阻害しなかった。昨年度までに、他のMAPキナーゼのJNK、p38の活性化の関与を否定できているので、血清飢餓→CSE発現誘導→持続的ERK活性化の関連が示唆された。興味深いことに活性イオウドナーであるNa2S4処置によるERK活性化は亢進したが、血清飢餓によるERK活性化は遺伝子導入によるCSE過剰発現によって逆に抑制されていた。つまり、血清飢餓→CSE発現誘導によるERK活性化には“ちょうど良い”量/局在のCSE発現誘導(活性イオウ)が重要かも知れない。 ②既存のシグナル活性化薬/阻害薬によるCSE発現誘導の試み:血清飢餓によるCSE発現誘導は、抗酸化作用を有するN-アセチルシステイン(NAC)やアルブミンの処置により影響を受けなかったので、血清飢餓によって産生する活性酸素の関与は否定された。低エネルギーセンサーであるAMPキナーゼの特異的活性剤(AICAR)の処置によるCSE発現誘導は血清の有無にかかわらず認められなかった。一方、脂肪やグリコーゲン分解に関わるcAMP増加薬であるフォルスコリンの処置によって血清含有時にCSEの発現誘導が認められた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要の通り、①CSE発現を誘導する血清除去による細胞内シグナルの解析:血清飢餓によるCSE発現誘導時の細胞内シグナルの解析、②細胞長寿誘導薬スクリーニング系の確立:既存のシグナル活性化薬/阻害薬によるCSE発現誘導の試みを行なった。概要の通りの結果であるので実験計画は、おおむね順調に進展していると思われる。つまり、最終年度に向けて本研究課題目的である「細胞飢餓経路を模倣した適切なCSE発現誘導の実現」の基盤研究が展開できたものと自己評価する。特記すべき点は、実績概要①②の結果には、細胞特異性が認められていることである。つまり、どの細胞においても見られる現象ではない可能性がある。予備的知見として、cAMP増強薬刺激によって細胞増殖・遊走能は抑制されたが、実臨床で使用されるブクラデシンナトリウム(褥瘡・皮膚潰瘍治療剤であるcAMPの誘導体(Dibutyryl cAMP)含有製剤)は角化細胞の増殖遊走促進を有する。また、既報では、CSEや他のイオウ代謝酵素である3MSTの発現/活性がある種のがん細胞での増殖に関与しており、それらが抗がん剤の標的分子として位置づけられている。本研究では不死化されたヒト胚性腎臓由来の細胞株を使用しているが、線維芽細胞は臓器ごとにその遺伝子プロファイルが違う(PNAS, 2002,99, 12877-12882)。したがって、今後は、骨格筋細胞へ分化誘導したマウス筋原細胞(C2C12細胞)や初代マウス胚由来線維芽細胞(MEF: Mouse Embryonic Fibroblast)を用いた解析を実施したい。ただ、血清飢餓→CSE発現誘導→持続的ERK活性化に伴う細胞機能(増殖/遊走能)などの下流シグナルの解析や最終目標である「細胞長寿」に関連するとされるミトコンドリア機能解析については知見を発展できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
細胞長寿薬の標的として適切なCSE発現誘導の実現を目指し、以下の2点の方策を行う。 1)CSE発現誘導するcAMP増強薬の細胞内シグナルの解析:血清飢餓はcAMP信号系を作動させる(Cell. Signal. 18 (2006) 519-530)が、血清飢餓によるCSE発現誘導におけるcAMP信号系の関連性をAキナーゼ阻害薬(H89)で検討する。CSE発現の意義を活性イオウに加え、グルタチオン検出でも行う。また、細胞長寿に関連するミトコンドリア機能は、ミトコンドリア膜電位インジケーター(JC-1)やミトコンドリア含量の指標としてクエン酸合成酵素活性の検討で行う。細胞機能(増殖/遊走能)やERKと細胞老化マーカー(SA-β-gal: senescence-associated β-galactosidase、細胞周期制御因子:p53、p21)活性の時空間的変化を解析する。 2)血清飢餓以外のカロリー制限の検証:炭水化物制限(糖質飢餓)の影響を検討する。方策は、グルコースのアナログである2-デオキシ-D-グルコース投与によるケトジェニックダイエットモデルで行う。糖質飢餓は血清飢餓を模倣するという報告がある(Free Radic. Biol. Med. 139 (2019) 35-45)が、活性酸素産生やAMPキナーゼ活性化を伴っている(Free Radic. Biol. Med. 51 (2011) 327-336)。したがって、研究実績②の結果より、活性酸素やAMPキナーゼの関与は否定されたので関与は少ないと思われる。また、アミノ酸飢餓の影響をアミノ酸センシングであるmTORの関与(ラパマイシン負荷)を通して検討する。さらに、FoxO3a活性亢進薬(オーラノフィン、メトホルミン、フェノフィブラート)の効果検討も行い「細胞長寿におけるCSE発現誘導の役割解明」を目指したい。
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