研究実績の概要 |
カロリー制限による寿命延長に重要とされるイオウ代謝酵素のシスタチオニンγ-リアーゼ(CSE)の発現誘導の意義について培養細胞系を用いて解析した。培養液より血清を除去し、HEK293細胞内CSE 発現誘導を確認後、血清再添加でCSE発現誘導を停止させる系を確立した。この系を用いて、血清除去(栄養飢餓)によるCSE発現誘導によってMAPキナーゼのうちERK1/2が選択的に活性化されていることを見出した。一方、遺伝子導入によるCSE過剰発現によってERK1/2は観察されなかった。最終年度は、血清飢餓シグナル以外のCSE発現誘導を試みた。ヒト肺胞上皮基底腺癌細胞(A549)において、脂肪やグリコーゲン分解に関わるcAMP増加薬のフォルスコリンや細胞内透過性のジブチリルcAMP処置によりCSE発現誘導を確認した。また、フォルスコリン処置によりCSE発現が誘導するとともに細胞遊走能の低下が見られた。PKAの阻害剤であるH-89の処置によりCSE発現誘導と細胞遊走能の低下はともに抑制されていた。しかし、siRNA導入によるCSE発現抑制及びCSE阻害剤のD,L-プロパルギルグリシンによるCSE活性阻害による細胞遊走能の促進傾向はみられなかった。つまり、cAMP信号系によるCSE発現誘導と細胞遊走能の低下は独立事象として存在すると思われた。また、マウスマクロファージ細胞Raw264.7細胞において炎症惹起に関わるLPS刺激によるCSEの発現誘導を見出した。以上、CSEの発現誘導には、cAMPやLPS信号系で模倣されること。発現誘導によりMAPキナーゼのうち、ERK1/2が選択的に活性化されているが、細胞遊走能への影響は見られないことが分かった。当該研究により、細胞長寿シグナルとして、cAMPやLPS信号系の作動の有用性が確認できた。
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