研究課題/領域番号 |
18K11084
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研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
林 直之 金沢学院大学, 人間健康学部, 教授 (50253456)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 核内低分子量Gタンパク質 / ミトコンドリア / 酵母 / AMPK / MAPキナーゼ / グリセロール代謝 |
研究実績の概要 |
細胞内小器官ミトコンドリアは細胞の栄養代謝で最も主要な役割を果たす器官で、その機能は細胞の栄養条件やストレス状態によって精密に調節されている。本研究では、酵母のいろいろな突然変異株を非発酵性炭素源であるグリセロールで増殖をテストし、ミトコンドリア機能の評価を行った。このうち、低分子量Gタンパク質のひとつをコードする遺伝子GSP1の突然変異に変異点特異的なグリセロール培地での増殖能欠損をみいだした。また、この形質は野生型のGSP1遺伝子を導入することで回復した。この突然変異細胞のうちgsp1-1894のミトコンドリアをマイトトラッカーによる染色法で精査すると変異細胞では蛍光強度が減衰しており、定量PCR法によるミトコンドリアDNA量の測定でも著しくミトコンドリアが減少していることがわかった。 このGSP1変異におけるグリセロール代謝能の欠損は、変異アレル特異的表現形質で、gsp1-1894変異がもつ3つのアミノ酸置換のうち、62番目のリジンがグルタミン酸に置換されたものが決定的であった。 一方で、GSP1だけでなく核内Gタンパク質にかかわる遺伝子のうちCRM1、YRB2でグリセロール代謝能の欠損が観察された。この2遺伝子は互いに遺伝的相互作用があり、代謝制御においても同様の相互作用を介して機能していると考えられる。また、crm1変異細胞においてミトコンドリアの喪失が観察されないことから、これら2遺伝子はミトコンドリアの機能的制御に対して関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
グリセロール代謝不能に陥る原因としミトコンドリア自食作用の活性化のためにミトコンドリアが消失した可能性を研究し、その根拠となる結果を得た。gsp1-1894変異細胞を野生型細胞と交雑させ、ミトコンドリアを得て、グリセロールの代謝能が回復した子孫を継代していくと、gsp1-1894変異を持つ子孫では徐々にグリセロール代謝能を失った細胞の割合が増えていった。そして、そのような細胞でミトコンドリアの有無をPCR法で検証するとミトコンドリアが無くなっていた。MAPキナーゼの一つHog1がミトコンドリアに対する自食作用を促すことから、Hog1信号伝達系の下流で働くGPD1遺伝子の発現を調べるとこの遺伝子の発現が上昇しており、gsp1-1894変異細胞でのミトコンドリアの喪失はHog1信号伝達系の亢進の可能性が考えられた。この可能性は、gsp1-1894変異細胞よりも高浸透圧下での増殖能が優れていることで確かめられた。 一方、gsp1-1894変異細胞はガラクトースおよびマルトースを炭素源とする培地でも増殖能が著しく失われていた。このような表現形質はSnf1/AMPKの突然変異で観察されていることから、Snf1のβサブユニットをコードするSIP2、GAL83、γサブユニットをコードするSNF4の遺伝子をそれぞれ多コピーベクターで導入して増殖の回復の有無を観察したところ、SIP2遺伝子の形質転換体で増殖の回復を見た。このことは細胞質内のAMPK活性が低くなっていたことが原因であることを示唆しており、gsp1-1894突然変異においては糖代謝信号伝達系も異常をきたしていることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の成果を国際学術誌に投稿し、受理を目指す。 gsp1-1894変異細胞で観察したミトコンドリアの消失が、ミトコンドリアに対する自食作用であるかさらに検討し、細胞内の栄養代謝がMAPキナーゼによるストレス応答によって制御される信号経路を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
購入した微量遠心機が予定よりも安価であったことと、今年度末までの投稿に論文が間に合わなかったため英文校正の費用が発生しなかった。したがって次年度に、英文校正等の論文投稿費用、そして、細胞観察に必要な染色液および顕微鏡観察に必要な消耗品購入費用として使用する。
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