本研究は核内低分子量Gタンパク質が細胞の栄養代謝と呼吸にどのように関わっているかを明らかにするものである。申請者は出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeの核内低分子量Gタンパク質遺伝子GSP1とその関係遺伝子の変異でグリセロールを炭素源として資化できない変異株を探索し、gsp1変異をはじめrna1、crm1、yrb2でグリセロール培地での増殖不能を認めた。核内低分子量Gタンパク質遺伝子GSP1で分離した多数の変異の中で発見したグリセロールを炭素源として資化できないもののうち、gsp1-1894変異はミトコンドリア機能が減衰しているだけでなく、ミトコンドリアそのものの量が減少していることが共焦点レーザー顕微鏡による観察と定量PCR法でわかった。この現象にはGSP1の62番目のリジン残基の変化が決定的であり、この変異を持つGSP1 DNAはgsp1-1894変異を相補できなかった。また、この変異株はコントロールの野生型株よりも浸透圧ストレスに抵抗性があり、Hog1 MAPキナーゼによって高浸透圧下で発現誘導がかかるGPD1遺伝子の発現が構成的になっていた。このことからHog1による信号伝達系が亢進しておりマイトファジーが誘導されていたと推察される。 ガラクトースやマルトースのようなグルコース以外の発酵性炭素源でもこの変異細胞は増殖能が低下していたことから、グルコース抑制の解除ができなくなっている可能性もあった。そこで、AMPKの制御サブユニットをコードする遺伝子を多コピーベクターで供給したところ、細胞質内βサブユニットのSIP2遺伝子によって増殖能低下が回復した。このことから細胞質内のAMPK活性の低下でグルコース抑制の解除ができなくなっていたと推察される。また、AMPKがHog1に対し抑制的に機能することから、これがHog1機能亢進の原因の一つとも考えられる。
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