研究課題/領域番号 |
18K11093
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター) |
研究代表者 |
田上 哲也 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究室長 (60273439)
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研究分担者 |
森山 賢治 武庫川女子大学, 薬学部, 教授 (00301739)
日下部 徹 独立行政法人国立病院機構(京都医療センター臨床研究センター), 内分泌代謝高血圧研究部, 研究室長 (60452356)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | UCP / Growth hormone / IGF-1 / Thyroid hormone / TSH receptor |
研究実績の概要 |
本研究の目的はエネルギー代謝に関わる因子による代謝調節の分子機構を明らかにすることである.サルコペニア肥満の病態モデルとして,近位筋萎縮による筋力低下と中心性肥満,骨粗鬆症を特徴とするCushing症候群,肥満とミオパチー,骨粗鬆症を呈する甲状腺機能低下症, 内臓脂肪蓄積と脂肪肝,筋力低下や骨量減少をきたす成人成長ホルモン(GH)分泌不全症 (AGHD)を想定した.これらの疾患はそれぞれ生命維持に不可欠なホルモンの過不足によるものであるが,その標的はエネルギー代謝に関わる遺伝子発現の調節である点で共通している.エネルギー消費の自律的調節に関与する有力な候補分子の一つがミトコンドリア脱共役蛋白質(UCP)である.UCPは酸化的リン酸化反応を脱共役しエネルギーを熱として消費する.GHやインスリン様成長因子1(IGF-1)はそれぞれ細胞膜受容体を介して作用する.GH はサイトカイン受容体のGH受容体に結合し,シグナル伝達経路のJAK/STAT系を介してNAD依存性脱アセチル化酵素(SIRT1)などの遺伝子発現を制御し,脂肪蓄積の抑制と寿命の延長に関与する.GHによって誘導されるIGF-1は受容体型チロシンキナーゼのIGF-1受容体に結合し,プロテインキナーゼAKTをリン酸化,フォークヘッド型転写因子(FOXO)の機能を抑制して肥満によるインスリン抵抗性を改善する.以前,我々はGHがSTAT5を介してUCP1遺伝子およびUCP2遺伝子発現を制御していることを見出している.今年度は主にIGF-1の作用および阻害型TSH受容体抗体による甲状腺機能低下症の分子機構について検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 本年度の成果として,以下の結果を得,論文発表ができた. 1. IGF-1はIGF-1R/PI3-Akt/FOXO4パスウエイを介して直接UCP3遺伝子発現を刺激した. 2. 煙草煙抽出液に含まれるアクロレインやクロトンアルデヒドはペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR)アイソフォームを刺激し,LDL受容体や肝X受容体(LXR)βといったコレステロール代謝関連分子の遺伝子発現の調節に影響した. 3. バセドウ病患者血清に含まれるTSH受容体自己抗体は刺激型,阻害型のヒトモノクローナル抗体,さらにニュートラル型抗体によって再現・模倣されることを示した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究より,甲状腺ホルモン受容体(TR),ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体(PPAR),肝X受容体(LXR)などの核内ホルモン受容体(NR)だけでなく,細胞膜ホルモン受容体である成長ホルモン(GH)受容体やIGF-1受容体,甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体についてもその下流にあるFOXOなどの転写因子を介して,ミトコンドリア脱共役蛋白質(UCP)やLDL受容体の遺伝子発現を制御していることがわかった.次年度は最終年度であり,当初の以下の目標を完結すべく,研究を進めていく.はからずも,新型コロナウイルス感染症が世界中に蔓延し,収束の目処も立たない中で,外出制限による運動不足が助長される中,座りがちの生活スタイルと高齢化によるサルコペニアの予防・治療はこれまで以上に喫緊の課題となった.サルコペニアにより活動性はさらに低下して消費エネルギーは減少し,内臓肥満によるインスリン抵抗性が酸化ストレスや炎症を惹起して, 高血圧,糖尿病,脂質異常症などの生活習慣病を発症あるいは悪化,ひいては動脈硬化を促進して脳卒中や心筋梗塞を引き起こす.さらに,筋力低下は骨粗鬆症を惹起し,それによる骨折は「寝たきり」を増やして生存率を低下させる.本研究では運動不足を補うような薬剤の開発を目指して,最終的にはGH,GC,T3系に共通するキー分子を見出し,上記の悪循環をピンポイントで断つような薬剤の開発を促し,健康長寿への貢献をめざすことであり,その目標に向けてさらに研究を進めていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度も本年度と同様の研究を予定しているが,次年度は最終年度であり,論文投稿費などの成果発表にかかる費用の増加が予想されるため,予定の研究費(実験試薬代,人件費・謝金)に加え,繰越し金はその補助予算として使用する. 実験試薬,細胞培養,動物実験計120万円,成果発表50万円,実験補助員への謝金50万円 計約220万円を想定している.
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