これまでにIL10 遺伝子欠損マウスから生まれた子マウスの炎症性腸疾患(IBD)の症状が、妊娠期および授乳期に食品成分を摂取することにより軽減されることがわかり、子マウスのIBDの発症にエピジェネティックな変化が関与することが示唆された。本年度では、胎児期にプログラミングされた疾患予防型の遺伝子発現様式、腸内細菌叢の変化に、エピジェネティックな変化が関与する可能性を探り、栄養環境によりエピジェネティックな変化と疾患の易発症性を結びつける分子メカニズムの解析を試みた。 子マウスの大腸粘膜における遺伝子のトランスクリプトーム解析およびプロモーター領域のDNAメチル化状態を網羅的に統合解析した結果、両オミクスで共通で変動した遺伝子としてIBDに重要な働きを持つ転写因子が抽出された。この転写因子プロモーター近傍のCpG islandの顕著な低メチル状態とmRNA量の有意な増加が明らかとなった。さらに、遺伝子発現の増加により、下流の標的遺伝子および重要な炎症性サイトカイン、ケモカインの発現が抑制されたことが明らかとなった。一方、腸内細菌叢の解析では、子マウスにおける菌種の多様性および炎症抑制関連菌の増加が確認され、腸内細菌叢バランス失調の改善効果が示された。母マウスの場合、菌叢の多様性に明らかな違いは見られなかったが、IBDの病因に関連するグラム陽性嫌気性菌であるTM7門のレベルが減少したことが見られた。興味深いことに、食品摂取群の子マウスの腸内において、T細胞の分化、炎症性と抗炎症性サイトカインの産生に関わる短鎖脂肪酸を含む有機酸濃度が30%以上増加する傾向があった。以上のことから、母マウス妊娠中食品成分の摂取によりエピジェネティックな制御機構を介して疾患発症リスクが減少している可能性が示唆された。今後さらなる詳細な解析を続けていく。
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