研究課題/領域番号 |
18K11114
|
研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
梅村 義久 中京大学, スポーツ科学部, 教授 (00193946)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | オステオカルシン / メカニカルストレス / 運動 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、ラットにおいて骨に荷重を及ぼす運動トレーニングをさせる条件および骨への荷重を減少させる条件を設定し、骨から分泌される多臓器連関制御物質の血液中の濃度変化を明らかとすることである。平成30年度の実験においては、身体的トレーニングおよび尾部懸垂に起因する脱荷重により、骨細胞から分泌され糖・脂質代謝に影響を与えるOC(osteocalcin)、およびリン・カルシウム代謝に影響を与えるFGF23(fibroblast growth factor 23)の血中濃度について検討を行なった結果、一部に有意差があったものの明らかな傾向が認められなかった。 令和元年度は一過性の運動に的を絞り、運動前後のカルボキシオステオカルシン(Gla-OC)および非カルボキシオステオカルシン(Glu-OC)の動態について検討を行った。運動は①床反力によって大きなメカニカルストレスが骨に加わるジャンプ20回、②ジャンプ100回、③大きくはないが床反力を伴う40分の軽度で持久的なランニング運動、④床反力を伴わない40分のスイミング運動、の4種類とし、Gla-OCまたはGlu-OCの変化に寄与する運動に含まれる生理的な要因について検討を行った。その結果、ラットにおいて約5分の100回のジャンプ運動は、40分のランニング運動および遊泳運動と同様に、運動直後の血清のGlu-OCおよびGla-OCの濃度を上昇させることが明らかとなった。一方、約1分の20回のジャンプ運動は血清のGlu-OCおよびGla-OCに影響を及ぼさないことも明らかとなった。この結果から一過性の運動後に血清OCが上昇する機序に、骨のメカニカルセンサーが寄与している可能性が示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の研究目的は骨へのメカニカルストレスの荷重の負荷または軽減によって骨細胞に刺激が加わった場合、骨細胞から分泌される多臓器関連制御に関わるOC(osteocalcin)、およびFGF23(fibroblast growth factor 23)の血清濃度がどのように変化するかを検討することであった。 まず、平成30年度の研究では、4週間の介入期間において、自由走運動による荷重の増加、および尾部懸垂による荷重の軽減は、OCおよびFGF23の血清濃度に明らかな変化が認めらなかった。そこで、令和元年度においては一過性の運動に絞って、運動前後のOCの動態について実験を行ったところ、運動の種類によっては運動直後に血清のOCが上昇することが明らかとなった。運動の種類を比較することにより、OCが骨細胞から分泌される調節因子について検討することが可能で、メカニカルストレスがその重要な因子として考えられた。これらの結果は、新知見を含んでおり、次年度の研究計画を考えるうえでも重要なものとなる。これらを総合的に判断して、全体の研究計画としてはおおむね順調に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
令和元年度の研究では、ラットにおいて約5分の100回のジャンプ運動は、40分のランニング運動および遊泳運動と同様に、運動直後の血清のGla-OCおよびGlu-OCの濃度を上昇させることが明らかとなった。一方、約1分の20回のジャンプ運動では血清のGlu-OCおよびGla-OCに影響を及ぼさないことも明らかとなった。この結果から一過性の運動後に血清OCが上昇する原因の機序に、骨のメカニカルセンサーが寄与している可能性を示した。しかしながら、運動にはいくつかの生理的要素が含まれており、メカニカルストレス以外の要因が働いた可能性も否定できない。筋の収縮によって何らかのサイトカインが放出され、骨が細胞に働いている可能性もある。また、運動によるアシドーシスが刺激となっている可能性もある。 そこで、令和2年度における研究においては、運動の要素の一部に相当する刺激を与えることとする。すなわち、麻酔下のラットに電気刺激により筋を収縮させる、また麻酔科のラットに力学的負荷を骨に与える、という介入を行う。介入前後の血液を採取して、OCのなかでも特にホルモンの作用を持つと言われているGlu-OCの変化について測定を行う。この結果により、どのような刺激が骨芽細胞のOC分泌の調整因子になっているのかについて検討を行う。さらに、筋、骨、糖代謝の臓器連関因子のいくつかについても血中濃度を測定して、運動中に分泌されるOCの役割について考察を加える。 しかしながら、本年度はコロナウィルス感染症拡大の影響を受け、研究協力者や補助者の作業に支障が出る可能性がある。そのため実験準備が整わない場合には補助事業を1年中断し翌年に実験を持ち越す予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の実験においては、総じて計画通りに実験が進み、助成された予算を当初の計画通りに使用した。しかしながら、一部の測定においてテクニカルな失敗により測定をやり直したため、これに伴い他の測定項目について見直しを行うこととなり、消耗品費および人件費において当初計画とはやや異なる結果となった。繰越金の次年度以降の使用については、測定の精度をより高め、データの解析を慎重に行うため、消耗品および人件費に使用する予定である。
|