研究課題/領域番号 |
18K11117
|
研究機関 | 武庫川女子大学 |
研究代表者 |
伊勢川 裕二 武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (20184583)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | インフルエンザウイルス / ダイゼイン / 過酸化脂質 / 5-LOX / RNAポリメラーゼ |
研究実績の概要 |
ダイゼインによるインフルエンザウイルス増殖抑制機構を明らかにすることを目的とした。また、ダイゼインが大豆の主要なウイルス増殖抑制物質であることはPlant Foods Hum.Nutr. (2019) 74:538-543に報告した。 ウイルス感染により細胞内の過酸化脂質が増加し、ダイゼインによりそれが抑えられ、その結果、ウイルス増殖が抑制されるものという仮説を立て、ウイルス感染細胞、ダイゼイン処理細胞、ダイゼイン処理ウイルス感染細胞、そしてモック処理・感染細胞における細胞内の過酸化脂質量を測定した。その結果は仮説に反し、ウイルス感染による過酸化脂質の増加は認められず、ダイゼインによる過酸化脂質(5-HETE) のみの増加が認められた。5-HETE産生に関与する酵素の5-LOXの活性の阻害剤を用いて、ダイゼインのウイルス増殖阻害活性の抑制効果を調べた結果、5-LOXの直接の阻害剤によっても、siRNAによる5-LOXのノックダウンによっても5-HETEの産生抑制とウイルス増殖抑制活性の抑制効果が認められた。5-LOXのウエスタンブロッティングはダイゼイン添加により活性型の酵素が増加することを示唆していた。5-LOXの酵素反応産物である5-HpETEの添加により濃度依存的にインフルエンザウイルスの増殖を抑制することが明らかとなった。ダイゼインのウイルス抑制機構におけるシグナル伝達の細部は未だ不明点は残っているが、5-LOXの活性化を伴う過酸化脂質を介したシグナル伝達系を用いて、ウイルス増殖抑制を行なっていることが明らかとなった。これらの成果をJ.Clin.Biochem.Nutr.(2020) 66:36-42に報告した。 さらに、ダイゼインはウイルスRNAポリメラーゼを阻害することも明らかになってきた。しかし、その詳細に関しては未だ不明である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理由 ダイゼインによるウイルス増速抑制に関する当初の仮説が覆り、非常に興味深い知見が出てきた。ダイゼインのウイルス抑制機構におけるシグナル伝達の細部は未だ不明点は残っているが、5-LOXの活性化を伴う過酸化脂質を介したシグナル伝達系を用いて、ウイルス増殖抑制を行なっていることが明らかとなった。ダイゼインのシグナル伝達系を検索するためにエストロゲンレセプターの存在を調べたが、ウイルスのよく増えるヒト肺粘液性類表皮癌由来細胞株NCI-H292においてはほとんど発現していないことが明らかとなった。 また、ダイゼインはウイルスRNAポリメラーゼを阻害することも明らかになってきた。しかし、その詳細に関しては未だ不明である。
|
今後の研究の推進方策 |
ダイゼインのウイルス抑制機構におけるシグナル伝達の細部の未だ不明点を明らかにする。第一に、ダイゼインにより活性化される細胞のmRNAを次世代シークエンサーを用いて検索する。それらのmRNAの発現調節タンパク質を検討し、シグナル伝達系を明らかとする。第二に、ダイゼインによる5-LOXの活性化機構を明らかとするため、まず、5-LOXの活性測定を行う。各種MAPK阻害剤を用いて、ウイルス増殖抑制を阻害できるかを検討する。その阻害剤を用いて、5-LOXの活性化を阻害できるかどうかを検討する。第三に、5-HpETEからのシグナルが5-HETEを介してなのか、ロイコトリエンを介してなのかを検討するために、5-HETEあるいはロイコトリエン添加によるウイルス増殖抑制の検討及び、5-HETEあるいはロイコトリエンからのシグナル伝達の検討。第四に5-HETEあるいはロイコトリエンにより活性化される細胞のmRNAを次世代シークエンサーを用いて検索する。第五に、ダイゼインによるウイルスRNAポリメラーゼ阻害機構をCAPヌクレアーゼとポリメラーゼ活性の両者から検討する。
|